鯰かく語りき
「・・・っ」
立ち上がると、足がふらりとゆれるようなダルさがあった。眩暈もして、な
んだか気分が悪かった。握り締めていたはずのお金はどこかになくなっていた。
香苗は、思った。
「お母さんに、怒られる・・・・・・・・・・」
★
家に帰ると、母は怒らずに泣きながら香苗を抱きしめた。父もぼろぼろ泣い
ていた。どうしたの、と訊くとびっくりされた。そして言われた。
お父さんの誕生日から、半年が経っていた。
★
これが事の顛末だ。この後香苗は、両親にも友にも環境にも何もかもに溶け
込めずにな、えりかと同じように時の間をふらふらする奴になったよ。やはり
あの時食したのがまずかった。
で、私はエリカの言霊に縛られて今でも香苗の面倒を見てやってるわけだ。
まったく、死ぬ寸前だから少し聞いてやろうなどと思うんじゃなかった。だか
らあいつは好かんのだ。まぁ、最後にあいつの鼻をあかしてやれたから別にい
いが。
ん、私は結局誰だったかと?そんな事を訊いてどうするんだ?・・・まあいい。
私は、ただの汚い沼の主さ。長く生き過ぎたせいで、いつのまにか知恵がつ
いたただの魚介類。
特技は、地震を予知することだ。香苗を助けたのは、昔奴の母親に助けられ
たことがあったから、これで貸し借りなしのはずだったのだがな。
まぁ、私は退屈しないから、悪くはないよ。奴にとってどうかは知らないが。
〈了〉