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鯰かく語りき

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ろうか。見覚えのある笑い方だった。お母さんは、こんな笑い方をたまにする。
「や、あたしさ、小さい頃アオナちゃんとちょっと似てたっけなー、って思い
出しちゃって。なんかね、雰囲気・・・が似てる。自分で言うのも何だけど」
「ほんと?」
「うん、ほんとほんと」
 そう言ってからっとした笑いを浮かべる。アオナには真似できそうにない笑
顔。アオナは、驚きながらいつか私もこんな風に笑うようになるのかな、と思
うと嬉しくなった。その気持ちを相手に伝えるには、アオナはまだまだ幼い。



              ★



「結局、間に合わなかったなぁ」
「・・・・・・」
「運命とかさ、やっぱ簡単には変えられないのかな」
「・・・・・・」
「ここまでやって、あたしもがんばったのにさ」
「・・・・・・それが、?彼女″の運命なのだろうさ」
「・・・あーあ」
「・・・・・・」
「あと少しだったのになぁ」



              ★



ずんっ、と腹の底に響くような衝撃が、アオナとあおいを襲った。続けて、
地面が横にゆれ始めた。
「地震だ・・・・・・!」
「わぁぁぁっ!」
二人で思わず手を握り合って、その場にしゃがみこむ。しばらく、船の上にい
るかのような大きなゆれは続いた。がちゃん、ばきん、と何か壊れる音を聞こ
えたが、パニックに陥っている二人には気を回す余裕もなかった。



 静かになった。もう揺れてはいないし、どこも怪我をしていない。しかし、
周りの環境は大きな怪我を負っているようだった。
燃えている。破壊されている。
さっきまであった木が、家が、折れて倒れていた。火がところどころ舐める
ようにそれらを覆っている。公園の街灯も、折れて隣に落ちかけていた。
(もし公園にいなかったら、家にいたら―――)
そこで、はっとあおいが気付いた。
「お母さん!えりか!」
「!」
 顔色を変えて、あおいが走り出した。つられてアオナも走り出したが、全力
疾走の中学生と、アオナ程度の小学生が張り合えるはずもない。あっという間
に、あおいの姿は見えなくなり、アオナは破壊し尽くされた町の中で、迷子に
なってしまった。



             ★



「人の子、人の子、どうした」
 ふいに、上のほうから低い声がした。呆然としていたアオナは、そこではっ
と我を取り戻し、そして。
「うわぁああああん、うあぁああああああんっっ!」
 泣き出してしまった。いろいろなことがありすぎて、結果的に一人ぼっちに
なってしまったアオナはパニックを起こしてしまっていた。さらにそこへ、誰
ともわからない男が声をかけてきたのだから、アオナの反応としては珍しく普
通だった。
 上から見下ろしている長身の男は何も言わずに見てくる。アオナが泣いてい
るのも平気なようで、ひたすら黙って見つめていた。



「ひっ、ひっ・・・ゥうっ、ヴぇっ・・・・・」
「いいかげん泣き止んだか」
 アオナが改めて自分の近くにいた男を見上げた。全身黒ずくめの服で、男に
しては妙に長い髪を後ろでくくっていた。顔は、暗闇のせいでよく見えなかっ
た。腕組みをしてこちらを見下ろしてくる。
「さぁ、帰るぞ」 



           ★



 男はアオナをヒョイッとかつぎ上げると、足場の悪い中をつかつかと進んで
いった。アオナとえりかの二人で通った道が、あっという間に過ぎ去っていく。
みんなで遊んだ広場も、たくさんあった家もぐしゃぐしゃに壊れているのが一
瞬見ただけでもわかった。
「ねぇ、帰るってどこに!?どこに帰るの!?」
「おまえの家だ、忘れたか」
肩にかつぎ上げられて、顔は後ろに向いているものだから、前の方はどうな
っているかなんて分からない。必然、男の表情もまるで見えないのだった。
「おまえは父親の誕生日会の馳走のために、母親に頼まれて使いに出た。そこ
をえりかに見つかって、おまえは元の仕事を忘れ遊びに出てしまったのだ」
 思い出せ、と男が促してくる。
「そして時をさかのぼってまで球遊びなんぞにうつつをぬかして、あろう事か
こちらのものを食べてしまった。ふん、私に言わせれば、あきれた阿呆だ」
 アオナは男の言う事が途中までしかわからなかった。男が難しい言葉で喋っ
たせいである。しかし、所々聞こえた「父親」「母親」「誕生日会」で、思い出
したことはあった。
「ぎゅうにゅうと、しょくぱん・・・」
「そんなことはいいのだ!」
ポツリと呟いただけなのに、男がなぜか激昂してきた。それよりも、結構速
いスピードのおかげで、耳にひゅんひゅん風の音が聞こえるだろうに、呟いた
だけの音が聞こえていた事の方がアオナには驚きだった。
「そんなことではない、おまえにとってもっと大事なものだ!思い出せ、でな
いともう帰れんようになるぞ!」
苛立ったように男が怒鳴ってくる。あまりの剣幕に、思わずびくりと体がす
くむ。
「大事なもの・・・・・えっと・・・・・・・・・」




―――――今日はお父さんの好きなものを、お母さんと一緒に作ろう。
―――――香苗、お父さんは何が好きだっけ?



おもいだした。



いつのまにか、忘れていたこと。



とてもても大事なこと。



――――――どうして、忘れていたんだろう。



「あたしの名前は、アオナじゃない・・・」




「あたしは・・・・・・青河香苗だ・・・・・・!」








ばん、と光がはじけたような気がした。





           ★



・・・気が付けば、どことも分からない場所にいた。
「あーあ、ほんっと悪運強いなぁ、香苗は」
目の前に、えりかがいた。何も変わらない、当たり前のような顔をしてそこ
にいた。
「えりか!無事だったんだ!」
「無事じゃあなかったよ」
 喜んだ香苗に対して、えりかはぴしゃりとそういった。何も変わらない、当
たり前のような顔をして。
「残念なことに、死んじゃった」



「なんで?生きてるじゃない、ここに」
さらりといったえりかに対して、香苗もさらりとそういった。首をかしげて、
本当にわからないといった顔で、えりかを見てくる。
「わかんないかなぁ。・・・・・わかんないか。いくら変だのいったって、まだ小二
だものねぇ」
 えりかはそういって、困ったように笑う。
「もう、ゲームオーバーだ。もう終わっちゃった。最後の最後で、私の姪っ子
にかけたんだけどなぁ。無理だったかぁ。用事が長すぎたなぁぁ」
「?」
 悔しそうに言いつつも、えりかはからりとした、あおいに似た笑顔だった。
そこへ突然、全身黒ずくめの男が現れた。
「後はお願いするね。私のかわいい姪っ子、ちゃんと面倒見てあげて」
「・・・・・・・・・・・あぁ」
 ふふ、とえりかが笑った。そしてアオナを見た。
「巻き込んでごめんね!お姉ちゃんに、あなたのお母さんによろしく言っとい
て!」



「あたしの分まで、楽しく人生を謳歌してよ!!」





                

             ★



気が付けば、公園にいた。真ん中で、ぼろぼろの服で倒れていた。まるで長
い長い夢を見た後のような気分だった。
作品名:鯰かく語りき 作家名:ツイスター