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赤い瞳で(以下略) ep1-2

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7


「それじゃあ、今日からまた、一般病棟に移ってもらいますねー」
「はい」
 個室病棟で二週間を過ごし、僕はまた、以前入院していた病棟に移ることになった。以前はあそこで、更衣さんと一緒だった。もっとも、今では彼はもう、とっくに退院してしまっているだろうが。
――時々、思うんだよな。もしあいつがいなかったら、俺は今まで、どうやって生きてきただろうって――
――あいつがいない俺の人生ってのがもしあって……。俺が、どちらかを自由に選べるんだとしたら、――
――多分、迷ったりはしないだろう、と思うんだ――
 更衣さんの、あの言葉。
 その意味が、やっと分かったような気がする。
「はい。じゃあ荷物はあとでこっちに持ってきますからね」
「あ、はい。どうも」
 看護師さんが、僕のベッドを整えて、出て行った。……それにしても、何かが物足りないな……なんだろう。
 ああ、そうだ。
 香りが、足りない。
 みちるさんが、いない?
 何で、急に。あ、いや急でもないか。あれから二週間以上経っているわけだし。みちるさんが辞めてしまったのだって、何か理由があったのに違いない。
 うん、きっとそうだ。
 前向きに考え、僕はベッドから立ち上がる。まずは、隣のベッドの住人への挨拶だ。
「あのー……、ちょっと良いですか」
 軽く仕切りのカーテンを揺らして聞くと、はい、という答えが返ってきた。……ん?
「今の、声……」
 ひょっとして。
 いや、いやいや――……違うだろう。
 一人で首を振り、僕はカーテンを開けた。丁度窓際の場所だったため、一瞬眩しくて、目が眩む。
「…………」
 目はすぐに、明るさになれて。
 そこにいたのは、やっぱり。
「更衣さん!」
――……アラタ、君……。
「って、どうしたんですか、その足! 腕も……! 前より酷いじゃないですか! 何やったんです?」
 更衣さんは苦笑いをして、視線をそらした。
――いや、ちょっと。階段から、足を滑らせてね。
「んなベタな……」
 どこからどう見ても嘘なのに、堂々としている更衣さんに、僕は思わず吹き出す。
――なっ……。笑うなって。
「いやその、すいません。でも……その……、格好が……」
――だから、笑うなって……。
 足は両方吊られて包帯でぐるぐる巻かれているし、腕だって、左だけが吊られている痛々しい姿。それなのに更衣さんは、そんな自分の姿に何の興味もなさそうに、残った右手で文庫本を開いているのだ。これが笑わずにいられようか。
――まったく……紅也も同じように笑ってたし……。なんだってこれだけのことで笑えるんだか……。
 ふん、と更衣さんは考え込み。
 僕は、しばらくそのまま笑い続けた。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei