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赤い瞳で(以下略) ep1-2

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 さっきから、更衣さんは上の空だ。何を話しかけても、生返事。やはり、ショックが大きかったのだろうか。死体……それも、二つ。それも、惨殺死体。
 宇押友二君とは、何度か顔を合わせたことがあった。話したことはなかったけれど、明るい感じの、いい子だった。
 そういえば、看護師に、退院が近いことを嬉しそうに話していたのを覚えている。退院したら、サッカーをもう一度やるんだとか。
 ん…………。
 そうだ、そのときの看護師が、殺された桜坂さんだった。桜坂さんは子供好きだったと聞いている。それで、よく話していたのだろう。
 …………二人とも、つい昨日までは、この病院内で生きていたのだ。
 それを思うと、少し気分が悪くなった。でも、これも。
「……錯覚、か」
「何か言った? お兄ちゃん」
「ううん、なんでもない。……あ、何かデジャブった」
「…………?」
 僕のたわごとに、雪花は首をかしげる。
「いや、こっちの話。……ああ、そういえば」
 僕は、更衣さんのほうを向いて言う。
「今日、あの……紅也、さん来てないですね」
――あ……。
 更衣さんは急にはっとしたような表情になる。
――確かに来てないな。……珍しい。
 言いながらも、何か考え込む様子を見せる更衣さん。あの美少女……じゃなかった、紅也さんが更衣さんの見舞いに来ないなんて、初めてのことだ。相当仲が良いのだろう、いつも楽しそうに会話を交わしているというのに。
「更衣、さん……」
――……ん?
「あの……、仲、良いですよね。紅也さんと。付き合い、長いんですか?」
――…………。何だって? ゴメンアラタ君、なんか俺、急に耳が遠くなったみたい。……もう一度言ってくれ。
 どことなく、驚いたような、いやそうな、そういう表情をする更衣さん。……僕は何か、悪いことを言っただろうか。
「いや、その。……紅也さんと仲良いですけど、付き合い長いんですか?」
――…………いや、一ヶ月くらいの付き合いだよ。入院日数も含めて。
「え?」
――それに、仲は良くない。どういう風に見えてるかは知らないけど、仲が良いなんてことは、断じてない。
「…………」
 いつになく真剣な面持ちで言う更衣さんに、僕は何も言えずに肯く。
――あいつ、変わってるんだよ。アクマだし。
「…………?」
 困惑する僕に、その言葉の意味は分からない。
――ま、そういうわけさ。でもね、アラタ君。
「はい?」
 更衣さんは、僕の目を、相も変わらず無表情な目で見つめて言った。
――絶対に、俺はあいつと、仲良くなんかない。
「……はい……」
 分かってくれれば良いんだ、と更衣さんは笑った。
すみません、と、僕は訳もなく謝った。
「何々? 二人とも、随分楽しそうにおしゃべりしてるじゃない……」
 突然の、華やかで明るい声に、僕と更衣さんは振り向いた。そこには、至夏みちるさんが立っていた。
「雨夜君、もう刑事さんたちとのお話は終わったの? ……大丈夫だった?」
 笑いかけるその顔に、一瞬、暗い影がよぎったような気がした。
 更衣さんは、はい、と肯く。
「そう、……良かった、何ともなくて。それで、ちょっと話があるんだけど――……、ついて来てくれる?」
――話、ですか? ここでは……。
「ごめんなさい、ちょっと個人情報が絡んでくることだから、大っぴらには話せないの」
 珍しく言葉を濁し、目線を反らす至夏さん。更衣さんはそれに気付いたのか気付いていないのか、分かりました、と即答した。至夏さんはどこかほっとした様子で、それじゃあ、と続けた。
「それじゃあ、行きましょうか。ごめんねアラタ君。ちょっと、雨夜君借りるね」
 力なく笑う至夏さんと、沈黙してしまった更衣さん。
 僕は、病室を出て行く二人を、見送ることしかできなかった。
作品名:赤い瞳で(以下略) ep1-2 作家名:tei