春に降る雪
冬休みという期間を経て、この子達にはどんな楽しいイベントが待っているのかしら。どんな成長を見せてくれるのかしら。次に会うときはどんな顔をみせてくれるのかしら。期待に胸を膨らませていた西田先生だったが、次の瞬間、先生の楽しい思考はまたもやこの生徒によって一時停止された。
「あ、ヤベェオレ行かなきゃ!」
ガタッという音と共に立ち上がると、少年はランドセルをひっつかんで立ち上がった。
「ちょっ、ちょっと大樹君、まだ先生の話が終わってないでしょ?」
少年が扉に立ったところで西田先生は少年のランドセルをつかみ、先生の方を向かせて言った。子供と話すとき彼等と同じ目線でものを見ようとする先生は今でもちゃんと膝を曲げ、少年と目を合わせて言い聞かせる。
「センセ、オレどうしても急いでるんだ!ちゃんと後で掃除するからさ」
西田先生の目をしっかり見据えて言った少年は次の瞬間するりと先生をすり抜けた、と思ったが先生はもう一度少年の肩をつかんだ。
「お願いだよ先生。オレを信じて」
そう言う少年の真剣な目を見て、先生はため息をついてしまった。そうして優しい顔をしてゆっくり言った。
「…全く、大樹君にはかなわないわね。行ってらっしゃい」
その言葉を聞くと少年は大急ぎで廊下を走り、校舎を出た。外を出ると、辺りは真っ白な雪で覆われていた。少年は嬉しそうに雪を見ると、飛び掛った。
「よし、みてろよ春日・・・」
少年は小さな手で、雪をすくいあげた。
「春日ー!」
クリーム色の扉を開けると呼びなれた名前を呼んだ。その声に応えて奥の白いベッドから明るい声がする。
「大ちゃん!」
「…ほら見ろ春日!雪だるま♪」
嬉しそうに言う少年の手には小さな雪だるまがチョコンと置かれていた。よく見ると少年の手は真っ赤になっていた。
「ありがとう、大ちゃん」
「全くさ、退院したかと思ったら雪にまみれてゼンソクひきおこすなんて」
「…ごめんね、でもあたし大ちゃんが来てくれて嬉しいよ♪」
そう言うと少女は頬を桜色に染めて微笑んだ。少女の手に渡された、溶けかけの小さな雪だるまがニッコリと微笑んで二人を見上げていた。