小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Merciless night ~第一章~ 境界の魔女

INDEX|1ページ/9ページ|

次のページ
 

第1章 表裏の空





 玄関のドアを開けて……。

「おっはよーう。成人」

「お、おはよう。朝から……元気…だな」

「当たり前でしょう。1日の始まりは元気さと笑顔から。これ基本」

「は……はあ」

 いつものことだが雪上のテンションには圧倒される。
 目の前で今日1日張り切るつもりのヤツが、同じ双葉目学園2年の雪上 静。金髪に長いロングストレートの髪。それをなびかせ日々笑顔。それがモットーらしい。
 そして、その後ろにいるのが、

「よお零」

「おはようございます成人先輩」

「『先輩』はつけなくてもかまわないよ。ただの成人で」

「成人…さ…ん、はい」

 天水 零。同じく双葉目学園1年。今年入学したばかりだ。髪色は雪のように白く、頭のてっぺんに2つのリング(輪)をつくったツインテール。容姿は一見幼く見えるが、たまに大人びて見えることもあり、オレは自分という1線を越えないために少し間を取っている。それほどに彼女は危なかった。
 2人はオレの家の隣に住んでいる。両隣というわけではない。雪上が天水の家に居候している。聞いた話では親が海外出張だとかで、去年から出張に出てそれっきり天水の家にお世話になっている、ということらしい。人にはいろいろな家庭事情があるということだ。

「よし学校へ~レッツゴー」

「はいはい。行こうか零」

「はい」

 都会に似つかない桜並木の道。ピンクのガラスの破片は風に踊らされ宙を舞う。
 『サクラ』が始まりを示す物ならば、この年(みち)もまた始まりを表しているのだろう。
 
 あの日に戻れれば……。

 違ったか。
 過去に戻りたい、と思うのは誰でもある。
 それは、昔の禍根を晴らす、因の払拭や、刹那の夢をみていたいというものだろう。
 それでもオレの考えは違った。
 
 あの日に失くした、あの日に戻れば、失くしたものが無駄になる。

 つまり、過去あっての自分という考え。そんなもの誰もが同じ、果たしてそうだろうか?オレはあくまでそう思いたい、という程度だ。
 人の考えは年を重ねる毎に変わる。ならば、そこで満足してしまうことは、自身の過去に何も興味は無いということになる。
 過去の自分は自分だが、今の自分は決して過去の自分とは全く違う他人。
 その考えは自身の生きてきた歩みを消すことになる。
 オレはそれだけは避けたかった。
 今ある自分も本当だと信じたかったから……。

「ねえ、成人。春と言ったら何でしょうか?」

「それは決まっている。ウハウハだ」

 一時、沈黙が訪れる。

「成人先輩?ウハウハって何ですか?」

「いや、『先輩』はつけなくても……。ウハウハって何だと。ウハウハか。ウハウハはだな……」

「零ちゃん。一ついいこと教えてあげる。ウハウハはね、……恋なの。」

「え!こ…恋なんですか?」

「そうよね成人?」

「え?あ…いや、ああ。」

 予想外の答え。オレはスルーか、つっこみを待っていたのだが。
 話が通じてしまっている。

「零ちゃん。もし狙っている男子、気になる子がいたら教えなさい。私がいつでも 相談に乗ってあげるから。それと、いい男子がいた場合も相談すること。」

「分かりました」

 なぜか笑顔で返答する零。
 ん?待てよ。オレはそのカッコイイ男子に入ってないのか?

「おい、雪上。オレは?」

「え!あの…それは」

 言葉を詰まらせそっぽを向く。

「それは……」

「それは」

 と聞き返してみる。

「あれよ、あまりに身近で、とても近くにいる存在で、気づけなかった。………え!」

 雪上は自分の言った言葉になぜか驚きあたふたする。

「どうした雪上?」

「い…いや、なんでも……ない」

「ならいいけど。大丈夫か?」

「う…うん」

 何が大丈夫か分からないが、まあ大丈夫ということで話を終わらせておこう。

「前言撤回。零ちゃん。好きな人の前では、もじもじしちゃだめなんだからね!」
 いきなり顔の形相を変え零に説教じみたことをいう。
 それに対しなぜか、はい、の2つ返事の零。
 この二人の考えはどうなっているんだ、と考えている間に雪上は走り出す。

「じゃあ昼休、屋上でね」

 雪上が勢いよく手を振る。
 オレも負けないように手を振る。

「では、成人先輩。私も行きます」

「おう」

 なぜか零も走り出す。

「何なんだ、あいつら?」

 駆け出す理由を聞かず、遠ざかる背中を見送る。








 教室のドアを開ける。

「おはよう、ナッリー」

「お、おはよう坂宮」

「おはよう成人」

「よお、池井。相変わらずのモテぶりだな。」

「おまえ、俺に対する侮辱と取らせてもらおう。俺は生まれてこの方、この顔を見るたび呪っている。分からないだろうね、この顔の皮肉さは」

 いつもの通り池井は女子に囲まれている。
 いじめられているわけじゃない。

「ねえイケ君。今日私と昼ごはん食べない?」

「だめよ。ねえ、私と、ヒ・ル・ゴ・ハ・ン」

「だ~め。私と」

「私も~」

 と、このとおり彼はモテモテなのだ。
 彼は生まれながらにしてイケメンと呼ぶほどのカッコよさ。これに加え賢く、優しいときた。誰からみても非の打ち所が無い人物。故に彼は学園のアイドル、と呼ばれているらしい。
 オレと池井はこの学園から一緒。といっても昨年の冬に、オレがここの学園に転校してきたからだから付き合いは短いのだが、いい親友だ。だから、完璧なアイドルの悪いところも知っている。
 それは、ネガティブという点だ。だが、そこをみせるのはオレと二人のときだけ。まぁいいヤツに変わりはない。

「池井、モテるのもいいが、ほどほどにな」

「おい、成人」

 女子に囲まれる池井を通り過ぎ自分の席に着く。
 オレの席は教室最後方、窓側の席だ。

「ねえ、ナッリー」

「なんだ坂宮」

 坂宮、下の名前は忘れた。髪は茶髪がかった色をしていて、頭の斜め横に髪が結ばれている。そして、帽子を常に着用。黙っていれば美人なのだが……。

「なんだじゃない。わたし無視された~。」

「おまえいた?」

「いたもん。」

 怒ってそっぽを向く。その動きに坂宮が被っている帽子もそっぽを向く。

「怒ったか。じゃあこの飴は、い・ら・な・い・ん・だ・な?」

 ポケットからレモン味の飴を取り出す。

「それ、ほっし~!」

 坂宮は目の色を変え飴に飛びつく。飴から坂宮を離そうと手をおもいきり振るも、飴を掴んだら最後、坂宮は絶対に離さない。

「あめちゃん~」

 掴んだ飴の袋をほっぺでこする。

「おまえも相変わらず、だな」

 授業の始まりのチャイムが鳴る。坂宮も、池井を囲む女子も急いで席に着く。
 自分の席から窓のフィルムを通して、そらを見る。
 雲は無く青々とした空間。ここが晴れでも、別の場所では雨、もしくは曇りなのだろう。
 そう考えればこの目に見えるそらは、限られた空間だな。

 空間(そら)が歪む。



「――――そこにいたんだ」

「え!」

 空間(そら)の歪みは消え、元のそらに変わっている。

「夢だったのか?」

 疑問はすぐに消え去り、どこかで隠れる。