隠れ森のニジイロトカゲ
それはミゾーの命が、あと少ししか残っていない時のことです。
東のビースという大きな街の近くの、それはそれは小さな村に、ガラスの体を持った少女がいました。
彼女は理由も解らないままに、学校で毎日いじめられて、気がつけばいつも独りぼっちでした。そんな彼女はいつも思っていました。
「どうして私は生まれて来たのだろう?」
「いっそ…、死んでしまいたい。」
そう考える時、彼女はおかあさんの言ったことを思い返して「そうよ、私ひとりが我慢すれば…」と考えます。
そのうち彼女は、ほかの者とは接しなくなってしまい、唯一の友だちと言えば大好な本の登場人物たちだけで、知らず知らずのうちに、そんな本のストーリーやお気に入りの人物に、憧れをいだくようになっていたのです。
いつかは自分もこんな相手と出会って、こんな生活を送るときが来るのだ。そう考えることで彼女は、辛い毎日もジッと我慢できたのでした。
その少女の名前はグラスバニー。
そうです。この少女こそが、あの時ニジイロトカゲのミゾーと約束をしたクリスタルバニーが、再び下界へと生まれ下りた姿だったのです。しかし再生したグラスバニーには、以前の記憶は残されていませんでした。
でもミゾーは、まだこのことを知ることもなく、隠れ森でひとり、シシオの言った言葉を考えて毎日を過ごしていました。
再びふたりが出会えるその日が、いつか来ることを祈りながら…。
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠