朧木君の非日常生活(2)
「プロフィールの説明は終わったかい?」
「お前が都市伝説だ!」
人の心を見透かすな。
「まぁそれはそうと、朧木くんはこれから鬼火ちゃんをどうしようと考えているんだい?」
「だから、それを相談しに来たんだろ」
「違うよ、朧木くん。僕がどうするって話じゃない。君はどうしたいか聞いているんだ」
正真正銘の真面目なトーン。あたりの静けさに呼応しているかのようなトーン。
蜻蛉さんの問いに俺は言葉を詰まらせた。
「それに僕の専門は都市伝説だ。ドッペルゲンガーとかね、そういうの。鬼なんて専門外だよ」
蜻蛉の言い分は当たっている。鬼は都市伝説でもなんでもない。伝説でも幽霊でもない伝承。化物。そして、もし人間が鬼と相対して抱く感情は、恐怖。
「僕にとっても未知の世界だよ。触れたことがない世界。触れたくもない世界。まず僕は幽霊とかそういった存在を否定する存在だからね」
「けど、あまりに不憫じゃないか。見た感じだと帰る家もなさそうなんだ。名前すらなかったんだから」
「僕からしたら、朧木くんが不憫だと思うけどなぁ。だってそうだろ?鬼と出くわしたんだから。鬼と出くわした人間なんてそうそういないと思うよ。いたとして
も僕は聞いたことがない。朧木くんは不憫だけど強運で凶運だよ」
確かに俺も不憫だと思う。でも、けど鬼火ちゃんの方が不憫だと思った。周りに仲間がいないんだから。一人じゃない、独りだ。
「分かったよ。鬼火ちゃんが来たら帰るよ」
そう、これは俺が持ち込んだ問題なんだから、他人も巻き込むなんてもってのほかだ。
「ちょっと待って。朧木くんは何か勘違いしてるよ。なにも僕は協力しないなんて言ってないじゃないか。ただ専門外なんだから僕に解決策を求めないでくれよって話なんだ。だから朧木はどうしたいのか聞いたんだよ」
・・・・・・え?
俺は予想外の返答に思わず首をかしげた。
「協力するよって言ってるんだよ」
なんて…遠回しな言い方だったんだ。遠回りにも程があるだろ。テンポを考えようよ、蜻蛉さん。
でも、やっぱり蜻蛉さんはお人好しだ。
「マジで? ありがとう」
「いいよ、趣味だから」
ん? 都市伝説の解決は趣味って知ってるけど鬼は都市伝説じゃないって言ってたよな。んじゃお人好しも趣味なのかな?
「プロフィールに書いてあったじゃないか」
「あなたはエスパーですね、分かります」
もう蜻蛉さんは人間の領域を越えていますよね。
けど人間がなんだよなぁ、人間って奥が深い!
「まず朧木くんの意見を聞こうじゃないか」
ちなみに蜻蛉さんを始め、俺たちは切り替えが早い。
作品名:朧木君の非日常生活(2) 作家名:たし