緑の並木道 3
照れる様子もなく「そうだ」と言った彼は律儀にも私たちをお互いに紹介してくれた。高村君の隣にいたその子は可愛らしい笑顔を見せ、私に会釈をしてくれた。
少し彼らと話すと臨時に作った急用を理由に私は早々とその場を去った。やりきれなかった。胸が焼けるように熱い。ただ悲して、悔しくて。私は無我夢中でさっきまで浮かれ気分だった私がいた並木道に走っていった。
ベンチには奴、三澤葉流が座っていて猛ダッシュで突進してくる私を目を丸くしながら見ていた。ベンチの端に熱くなった目頭を隠すためにうつむいて座った。一瞬横目でこっちを見ると奴は何事もなかったように学生カバンから文庫本を取り出して読み始めた。
それからしばらくして、私が落ち着いたのを再び横目で確認した奴がぽつりと一言呟いた。
「…先輩、忘れ物してっちゃ駄目じゃん」
「…え」
生意気な笑を見せた奴が見慣れたブルーの携帯を目の前にかざした。一つだけ着いているさえないストラップが虚しい音を出して揺れた。
「…あ」
奴からそれを受け取りながら、ふいにため息をついてしまった。
「人の顔見てため息つくなよ」
「あ、ごめん。あのさぁ前にステキだなって言ってた人いたでしょ?あの人…駄目だった」
気のせいか、奴は嬉しそうに微笑んだ気がした。
「…だから言ったのに」
今日、私は朝まで泣き続けるかもしれない。そう思うくらい私は沈んでいた。
奴が、思いも寄らぬ言葉を口にするまでは。
「…あのさぁ、けっこー前から好きなんだけど」