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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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鬼になったぼく

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 ぼくは新米の赤鬼だ。鬼と生まれて四十年。
 人間でいえば、八才くらいの子どもだけど、いよいよこれから独り立ちの儀式に向かう。
 それは節分の今日、災いの種を持って人間の家に行くことだ。
 世話役の、金髪でロン毛の青鬼が言った。
「いいな。ちび。必ず裏口から入るんだぞ」
 ふだんの人間はすきだらけで、おそうのは簡単だ。だから、大嫌いな豆や鰯の頭をかいくぐって、災いの種をまくのに成功してこそ一人前と認められる。

 ぼくは町はずれの、おばあさんが一人で住んでいる、小さなボロ家に目をつけた。
 台所からそっと忍び込んで、種をまこうとしたら、いきなり怒鳴られた。
「こら、よしお。またつまみ食いしたね」
 なんで? 姿は見えないはずなのに。
 びっくりして、あわててにげようとすると、おばあさんはぼくの腕をつかんで、
「真っ赤な顔して。熱があるんじゃないか」
と、おでこに手を当ててきた。それから、
「まあまあ、こんな大きなたんこぶまでつくって。痛かっただろ」
 角をこぶと間違えて、ぼくをむりやり布団に寝かせたんだ。
 どういうわけか、ぼくは力が出なくて、されるままになった。布団はぽかぽか暖かく、お日様のにおいがして、なんだかなつかしい。そのうち、うとうとと眠くなった。

「よしお。おまち。またいたずらして!」
 母ちゃんの怒ってる声……。あれ? なんで母ちゃんなんだ?
 お日様のにおいは、急に線香のにおいに変わった。母ちゃんが泣いている。
「よしお! 目をあけておくれ!」
 それから場面はめまぐるしく変わり、父ちゃんが事故で死に、家は火事で丸焼けになった。不幸の連続だ。
「よしお。よしお」
 必死にぼくを呼ぶ声で目が覚めると、母ちゃんの顔があった。
「よかったね。よしお。この外人さんがおぼれていたおまえを助けてくれたんだよ」
 そこには金髪でロン毛の青鬼がいた。母ちゃんには人間に見える術をつかって。
 ぼくはきょろきょろとあたりを見回した。見覚えのある部屋だ。壁に掛かっているカレンダーは、一九六三……え? 四十年前?
 そうだ! 今日、ぼくは川に落ちて……。
 青鬼はテレパシーでぼくに言った。
「思い出したようだな。親より先に死んだから、おまえは鬼になった」
 ぼくはこくんとうなずいた。
作品名:鬼になったぼく 作家名:せき あゆみ