鬼になったぼく
ぼくは新米の赤鬼だ。鬼と生まれて四十年。
人間でいえば、八才くらいの子どもだけど、いよいよこれから独り立ちの儀式に向かう。
それは節分の今日、災いの種を持って人間の家に行くことだ。
世話役の、金髪でロン毛の青鬼が言った。
「いいな。ちび。必ず裏口から入るんだぞ」
ふだんの人間はすきだらけで、おそうのは簡単だ。だから、大嫌いな豆や鰯の頭をかいくぐって、災いの種をまくのに成功してこそ一人前と認められる。
ぼくは町はずれの、おばあさんが一人で住んでいる、小さなボロ家に目をつけた。
台所からそっと忍び込んで、種をまこうとしたら、いきなり怒鳴られた。
「こら、よしお。またつまみ食いしたね」
なんで? 姿は見えないはずなのに。
びっくりして、あわててにげようとすると、おばあさんはぼくの腕をつかんで、
「真っ赤な顔して。熱があるんじゃないか」
と、おでこに手を当ててきた。それから、
「まあまあ、こんな大きなたんこぶまでつくって。痛かっただろ」
角をこぶと間違えて、ぼくをむりやり布団に寝かせたんだ。
どういうわけか、ぼくは力が出なくて、されるままになった。布団はぽかぽか暖かく、お日様のにおいがして、なんだかなつかしい。そのうち、うとうとと眠くなった。
「よしお。おまち。またいたずらして!」
母ちゃんの怒ってる声……。あれ? なんで母ちゃんなんだ?
お日様のにおいは、急に線香のにおいに変わった。母ちゃんが泣いている。
「よしお! 目をあけておくれ!」
それから場面はめまぐるしく変わり、父ちゃんが事故で死に、家は火事で丸焼けになった。不幸の連続だ。
「よしお。よしお」
必死にぼくを呼ぶ声で目が覚めると、母ちゃんの顔があった。
「よかったね。よしお。この外人さんがおぼれていたおまえを助けてくれたんだよ」
そこには金髪でロン毛の青鬼がいた。母ちゃんには人間に見える術をつかって。
ぼくはきょろきょろとあたりを見回した。見覚えのある部屋だ。壁に掛かっているカレンダーは、一九六三……え? 四十年前?
そうだ! 今日、ぼくは川に落ちて……。
青鬼はテレパシーでぼくに言った。
「思い出したようだな。親より先に死んだから、おまえは鬼になった」
ぼくはこくんとうなずいた。
人間でいえば、八才くらいの子どもだけど、いよいよこれから独り立ちの儀式に向かう。
それは節分の今日、災いの種を持って人間の家に行くことだ。
世話役の、金髪でロン毛の青鬼が言った。
「いいな。ちび。必ず裏口から入るんだぞ」
ふだんの人間はすきだらけで、おそうのは簡単だ。だから、大嫌いな豆や鰯の頭をかいくぐって、災いの種をまくのに成功してこそ一人前と認められる。
ぼくは町はずれの、おばあさんが一人で住んでいる、小さなボロ家に目をつけた。
台所からそっと忍び込んで、種をまこうとしたら、いきなり怒鳴られた。
「こら、よしお。またつまみ食いしたね」
なんで? 姿は見えないはずなのに。
びっくりして、あわててにげようとすると、おばあさんはぼくの腕をつかんで、
「真っ赤な顔して。熱があるんじゃないか」
と、おでこに手を当ててきた。それから、
「まあまあ、こんな大きなたんこぶまでつくって。痛かっただろ」
角をこぶと間違えて、ぼくをむりやり布団に寝かせたんだ。
どういうわけか、ぼくは力が出なくて、されるままになった。布団はぽかぽか暖かく、お日様のにおいがして、なんだかなつかしい。そのうち、うとうとと眠くなった。
「よしお。おまち。またいたずらして!」
母ちゃんの怒ってる声……。あれ? なんで母ちゃんなんだ?
お日様のにおいは、急に線香のにおいに変わった。母ちゃんが泣いている。
「よしお! 目をあけておくれ!」
それから場面はめまぐるしく変わり、父ちゃんが事故で死に、家は火事で丸焼けになった。不幸の連続だ。
「よしお。よしお」
必死にぼくを呼ぶ声で目が覚めると、母ちゃんの顔があった。
「よかったね。よしお。この外人さんがおぼれていたおまえを助けてくれたんだよ」
そこには金髪でロン毛の青鬼がいた。母ちゃんには人間に見える術をつかって。
ぼくはきょろきょろとあたりを見回した。見覚えのある部屋だ。壁に掛かっているカレンダーは、一九六三……え? 四十年前?
そうだ! 今日、ぼくは川に落ちて……。
青鬼はテレパシーでぼくに言った。
「思い出したようだな。親より先に死んだから、おまえは鬼になった」
ぼくはこくんとうなずいた。