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記憶の欠片

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「勝哉!」

「・・・・おはよう、マサ。」

「もう昼だけどな。メシ一緒に食べよ。」

「おう。」



いつでもハキハキした正幸が羨ましい。

特に、この頃の僕はどこかボンヤリしているから。



「お前、また同じもの食ってんの?」

「あぁ、気に入るとつい食べ続けちゃうんだよな。」

「飽きね?」

「全く。」



僕の長所は持続力だと友人達によく言われる。

確かに気に入ったものは長々と愛用してしまうけど、

根気強いわけでは決してない。

どちらかと言えば、冷めやすい性格だと思う。



「お前、今日暇?」

「ダメ。砂由と買い物行く約束してる。」

「お前なー。」



呆れたように正幸が見てくるけど、無視だ。

今日は、砂由に買い物に誘われたから、朝から気分が良い。

悪いけど、砂由より正幸を優先させることは一生無いと思う。










「お兄ちゃん!」

「砂由。」



待ち合わせ場所には、すでに砂由が居た。

僕を見つけて小走りで駆け寄ってくる砂由が可愛い。



「で?今日は、何買うんだ?」

「今度、みんなでご飯食べに行くでしょ?
 その服、選んで?」

「あぁ。うん、良いよ。」



僕の家では二ヶ月に一度くらいの頻度で、

家族揃ってホテルへご飯を食べに行く。

小さい頃から続いていて、砂由は毎回毎回お洒落をしていた。

昔は母さんが選んでいたけど、最近ではもっぱら僕が選んでいる。

砂由曰く、男の視点で選んで欲しいんだそうだ。

それを聞いた時、なんとなく複雑な気持ちではあったけど。



「お兄ちゃんは何着てくの?」

「ん?そうだな、僕も見ていこうかな。」

「じゃあ、私が選ぶ!」



適当にジャケットを着ていけばいいけど、

砂由が楽しそうに手を挙げて立候補してくれるなら、

喜んで砂由に選んでもらうことにするよ。



「じゃあ、お願いします。」

「任せたまへよ。」



僕が冗談っぽく頭を下げれば、

砂由は態とらしく気取った言い方をする。

お互い顔を見合わせて笑えば、

この瞬間以上に幸せな時なんて存在しないと思った。





「砂由、これは?」

「あ、可愛い。」



砂由に似合う服を選ぶのは楽しい。

似合うと思った服を差し出せば、

砂由はいつも嬉しそうに笑ってくれるから。



「似合うと思うよ。」



そう言って思わず笑ってしまうと、

砂由が何とも言えない目つきで僕を見上げてきた。

何かおかしな事でも言ってしまったのかと、一瞬不安になる。



「お兄ちゃんって、ずるい。」

「え?」



拗ねたような顔で睨み付けてくる砂由は可愛いけど、

砂由の言っていることは上手く飲み込めなかった。



「いつもさらっと言っちゃうんだもん。」

「何を?」

「だから、似合うとか!」



なかなか理解しない僕に苛立ったように言い切る。

でも、それでも僕の中では何が狡いのかまだ理解出来ない。

ただ砂由に似合うと思うから、そう言っただけ。



「あー、もう。お兄ちゃんがそんなんだから、
 私になかなか彼氏ができないんだよ。」

「・・・・僕のせいにしない。」

「だって、絶対そうだもん。
 私の理想が高くなるわけだよ。」



『彼氏』という言葉に、一瞬言葉が詰まってしまった。



「お兄ちゃんみたいに買い物付き合ってくれて、
 普通に似合うとか言ってくれる男の人、
 そうそう居ないんだからね!」

「身内と比べたらダメだろ。
 じゃあ、もう言わない方が良い?」



砂由にそう言ってもらえて嬉しかった。

それは砂由の中で、僕は凄く良い位置に居るということ。

でも、砂由が怒っているような気がして、

砂由が嫌なら、もう言わないようにしようと思った。

砂由に嫌われないことが、僕の最優先事項だから。



「それはダメ。もっと言って。」



思わず、笑ってしまった。

拗ねたような、開き直ったような砂由の言い方が、

可愛くて面白くて、頭を撫で回してやりたくなった。



「はいはい。お姫様。」



でも、本当に撫で回したりしたら不機嫌になるだろうから、

軽く頭に手を乗せるだけに自制した。



「私、これちょっと試着してくる。」

「うん。あ、荷物持つよ。」

「もー!だから、そういうところ!」

「あはは!」



楽しくて楽しくて、声を上げて笑う。

正幸がこんな僕を見たらきっと驚くと思う。

今の僕は、砂由にしか見せない僕だから。

この幸せな時間が、永遠に続けばいいのに。





ねえ、砂由。

他の男より僕が付き合いが良いのは当たり前なんだよ?

だって、僕は誰よりも砂由を大切に思っているんだ。

他の男になんて負けないくらい。


そのまま僕以上の男を見つけないでと思う僕を、

砂由はどう思うんだろうね。



僕だけを見て、なんて傲慢な願いは持たないから。

せめて、もう少しで良い。

僕の傍で笑っていて。



作品名:記憶の欠片 作家名:アリル