そのままの君で
なんで、と口に出そうとして、引っ込める。
しかし、もうここまで色々なことを言ってしまえば同じかと思ってついに口に出した。
「・・・なんで?」
最近のは読んでないの。
なんで最近冷たいの。
なんでメールの返事が遅くなったの。
なんで夏休みはいそがしいの?
聞きたいことは、山ほどあった。
「ちょっとこっち来て」
連れていかれたのは、受験用の本が並んでいるコーナー。
大学の名前が書かれた赤い本がずらりと本棚を占領している。
「最近、ここにある本借りたよね?」
「うん、これ」
そろそろ受験も考えろと先生に言われて、しぶしぶ借りた一冊を指差す。
その大学名がかなりの難関であることは日本全国誰もが知るところである。
「なんで、これなの?」
「うちのクラスの担任が、おすすめだって言ったから」
「この本の問題、できた?」
「うーん、けっこう難しかったけど・・・半分くらいなら」
そう平然と答えるけれど、その回答をきいた幸太郎は苦笑いである。
「俺、成績は悪くないと思うけど、この大学に入ろうと思えるほど勉強できないんだ。でも光と同じ大学にいきたくて、最近はずっと頑張ってた。暇があれば勉強するし、予備校にもいってる。でも、思うように結果がでなくて、最近はいつもイライラしてたかもしれない」
予備校にいってたから、メールも返せなかった。電話にでれないことも多かった。
夏期講習があって夏も忙しい。
それだけじゃなくて、暇があれば勉強をしている。
こんなに努力してるのに、なかなか自分の好きな人に追いつくことができない。
「悔しくって、光に対してあたってるところもあったかもしれない。本当にごめん」
うな垂れる幸太郎を光がぎゅっと抱きしめた。
嬉しくて、なきそうだった。
最近冷たかった理由がわかったからでもなく、
メールの返事が遅い理由がわかったからでもなく、
夏休みが忙しいといわれた理由がわかったからでもない。
同じ大学を志そうとしてくれていた。
もっと一緒にいたいと思ってくれていたのが、何よりも嬉しかった。
「幸太郎が俺のこと嫌いになったんじゃなくて、良かった」
もっと強く、幸太郎のことを抱きしめた。
光の体にも手が回される。
「なんで俺にいってくれなかったんだよ」
「だって、なんか悔しかったから」
「幸太郎って意外と意地っ張り?」
「光は意外と心配性?」
お互いの意外な面を指摘しあって、笑いあう。
「どんな光でもいいよ。だから、もっとありのままの光をみせて」
「でも、全部みせたら嫌いになるかもよ?」
「そんなことないよ。どんな光も、みんな俺のものにしたい」
「・・・」
言っている本人に自覚はないかもしれないが、すごい口説き文句だ。
思わず顔を赤らめてしまい、それを隠すように幸太郎の首に顔をうずめた。
「それなら、どんな幸太郎だって、俺のものなんだからなっ」
恥ずかしいくらいにぎこちない口調で、そう言った。
「喜んで」
1年前、光を一目惚れさせた男は、告白を受けたときと同じ口調でそう言ってよこした。
fin
次のページにあとがき的な、つらつらがありますー。
作品名:そのままの君で 作家名:律姫 -ritsuki-