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椎堂かおる
椎堂かおる
novelistID. 13261
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湾岸の風〜テルの物語

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 からかうように、イルスは老人に毒づいた。私は彼の予想年齢を引き下げた。実は大して私と年が変わらないんじゃないの? たぶん、十七、八ぐらい。少し年上なだけ。
「テル」
 指で招いて、イルスは私も一緒に部屋を出るように促した。
「お前を待っている家族はいるのか」
 イルスは扉をくぐると、私の背を押すようにして、足早に廊下を歩いた。
「いないと思います」
「それはいい。しばらく身を隠せ。お前は危険すぎる」
「私をどこかへ連れて行くんですか?」
 イルスは頷いた。
「ごはんは?」
 私が恨めしさいっぱいに訊ねると、イルスはちょっと驚いたように歩みを止めかけた。
「ああ、すまない。忘れてた。腹が減ってるか?」
「ものすごく」
 答えると、私のお腹がぐーっと鳴った。イルスは吹き出し、それが悪かったと思ったのか、笑いをかみ殺した気配で、私の背を押してまた歩き出した。