湾岸の風〜テルの物語
からかうように、イルスは老人に毒づいた。私は彼の予想年齢を引き下げた。実は大して私と年が変わらないんじゃないの? たぶん、十七、八ぐらい。少し年上なだけ。
「テル」
指で招いて、イルスは私も一緒に部屋を出るように促した。
「お前を待っている家族はいるのか」
イルスは扉をくぐると、私の背を押すようにして、足早に廊下を歩いた。
「いないと思います」
「それはいい。しばらく身を隠せ。お前は危険すぎる」
「私をどこかへ連れて行くんですか?」
イルスは頷いた。
「ごはんは?」
私が恨めしさいっぱいに訊ねると、イルスはちょっと驚いたように歩みを止めかけた。
「ああ、すまない。忘れてた。腹が減ってるか?」
「ものすごく」
答えると、私のお腹がぐーっと鳴った。イルスは吹き出し、それが悪かったと思ったのか、笑いをかみ殺した気配で、私の背を押してまた歩き出した。
作品名:湾岸の風〜テルの物語 作家名:椎堂かおる