ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。
少し半眼気味の美島さん。
「確かに。」
「切ない夢だな。」
「まぁ。」
「亡き女を相手に心に思うとといて。」
「その心は?。」
「妄想だ。」
ぶった切られた。
相変わらず美島さんは潔い、違うか、容赦ない。
切り捨てゴメン、みたいな。
どうでもいいけど。
「あはは、菜月ちゃんはおもしろいね。」
木沢はカラカラ鈴のように笑って言う。
その笑顔だけを言うならどことなく、ももちゃんと似通った部分が垣間見れる。
あくまで、どことなくだけど。
ありえないからね、ももちゃんと似ているなんて。
ああいう登場人物は1人で充分だ。僕にとっても。
「梨沙はかわいいよ。」
木沢は、僅かに口の箸で笑いながら、思わず恥ずかしくなってしまいそうな事をさらりと言ってのけた。
「そんなことないよ。菜月ちゃんの方がかわいいよ。」
そして木沢はまぁなんというか。
さすがは正統派幼なじみ萌属性。僅かに頬を染めつつもしっかりと友人をたてる。
「私がかわいいのは当たり前だ。」
「確かにお姫様属性だ。」
美島さん納得。
木沢は言い得て妙なりだったわけか。
・・・・・さて。
この、見てておもしろく、それなりに眼の保養になるであろう2人組は、木沢梨沙と美島菜月という。
もちろんのこと僕と同じこの高校に通う2年生の女子高生であり、それ以前に少しだけ面識があった少女達である。
たぶんだけど、両手で数えられる程度しか学校での交友関係がない僕に話しかけてくる実に珍しい種類の者達だ。
まあ思い当たる点を言うなら、それはたぶん僕が此処に住み始めたばかりに起こったとある事件。
ここから少し離れた場所で起こった、僕の交友関係よりも多くの人が犠牲になるところだったあの事件。
僕はたまたまその事件に巻き込まれて、あの2人もたまたまそれに巻き込まれていたというだけなのだが、意外な所で縁があったのか、同じ高校で出会うことになった。
僕自身は1年生の時に編入してきたのだが、その時本当にたまたまあの2人も此処にいたのである。
僕はすっかり2人の事は忘れていたのだが、そこは強引に自己紹介させられ今はこんな状態なのであった。
なんともなんとも、奇妙な縁だ。
完全に殺しきったと思ったんだけどな。
びっくりだ。
どうでもいいけど。
「おっ。」
がらがらと、なんだか古くさい音を立てて前方の扉が開く。
どうやら今日の授業が始まるようだ。
さっきまで話していた木沢と美島すでに前に向いている。
あー、引っ張りたいなぁ。
やったらセクハラで訴えられるかもしれないけど。
少年法適用だぜ、冗談。
そして僕は何となく窓の外を眺め、それから同じ曇り空を眺めている彼ら彼女らに思いをはせたりもせず、代わり映えもしない毎日のとある始まりを感じてみた。
<5章=ららら>
お昼の時間です。
今も天気は曇っています。一日中曇っていそうです。
「・・・・・・・・・・・・・・・何となくナレーション風に思ってみました。」
「なに?。」
木沢が隣の席から反応する。
「うんん。何でもない。」
「?。」
不思議な顔する木沢さん。
良かったね、まだ曇ってるよ。
「何でもないよ。」
「うん?。」
またいつもの癖がでちまったぜ。
そろそろ危ない人と思われても危ないラインかもしれないな。
特に気にしてもないけど。
そんなことを思いながら、僕は鞄の中から弁当箱を取り出す。
効果音がついてたりもしないけど、手作りだ。
今日の作品はみみさん作。
ももちゃんのとは違って内容はカラフルでは無いものの、味の方はこっちのが味わいが深いのである。
見た目にこだわるか中身にこだわるかの差だな、うむ。
ももちゃんの弁当が不味いわけでは決してないのだが。
どっちゃでもいいけど。
僕は弁当箱を持って立ち上がる。
「あ、こうくん。」
「?。」
僕が立ち上がると、同じように弁当箱を出していた木沢に声をかけられた。
少し伏し目がちで、なぜか僕と目を合わせようとしない。
なので僕は意地で見つめたりしないけど。
眺めながら答えが来るのを待った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「何?。」
なかなか続きがないので聞いてみた。
「あっ、えっと、あ、あのねっ。」
「うん。」
「そ、そのね。」
「うむ。」
「えええええ、えっとね。あれだよ、あれなんだよ。」
どれなんだよ。
「聞いてるから落ち着いて言って。」
「あ、うんっ。その・・・。」
それから木沢は上目遣いで僕を見る。
うわぁ、これがクラスで有名な天然男子生徒キラーか。
思わず僕も胸がキュン・・・ってこともないけど。
どうでもいいけど早く言ってくれ。
「こうくんっ、その・・・・・・たまには、私たちと一緒にお弁当食べないっ!?。」
「うん?・・・・・・、ああ。私たちって木沢と・・。」
僕は僕の前にいる馬のしっ・・・・・ポニーテールを見る。
机の上には、うむ。
「唐草模様とはまた渋い。」
「え?。」
「いやいや。木沢と美島とってことだよね?。」
「そういうことだ。」
椅子に座ったままの美島が僕の方を向いていた。
ほう、しかも弁当箱はお重か。
これまた渋い。
それっぽすぎて言う気にもなれないけど。
「え、えっと、駄目、かな?。」
木沢は、さらに少し首を傾げながら僕を見上げて聞いてくる。
「・・・うむ。」
というかそのコンボはなんだ。
この天然男子生徒キラーめ。
そんな手には乗らないぞとか思ってないけど。
「で、どうなんだ?。」
美島も同じように聞いてきたが、僕は首を振る。
「ごめん。またいつかご一緒さしてよ。」
そして、とりあえず適当に形式的な事を言って断った。
たぶんありえないけど、無下に切り落とすこともないからね。
2人とも見目麗しいしね、どうでもいいけど。
「あ、うん。ごめんね、無理言って。」
「うんん、別にいいよ。」
「甲斐性のないやつめ。」
「別によくないよ。」
そして僕は、2人の視線に追われながら教室から出ていく。
目的地は3千里先ってこともなくて、お隣の教室。
学食か購買に行く生徒とかとすれ違いながら、僕は無意識というほどでもないけどいつものように、習慣通りに歩いていく。
そして10秒もかからずに目的地に到着。
後ろの扉をガラガラという音とともに開けた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
途端に集まる無数の視線。
奇異の視線がほとんどで、しかも歓迎しているものは1つもない。
どちらかと言うと嫌悪気味のものばかりだ。
別に此処だけじゃないけど、此処は特に酷い。
両手に治まる程度だからなぁ、あの2人は珍しいんだよ。どうでもいいけど。
理由は、それ以外の物がたくさんあるだろうから。
「・・・・・・・・・・・ん?。」
視線を目的の方向へと向けると、見慣れない光景があった。
1人の明るめの茶髪の男子生徒が、窓ぎわ一番後ろの席の女子生徒に話しかけている。
雰囲気からして会話してるというよりは、男子生徒が一方的に話しかけているだけのようだが。
女子生徒の方は窓の外を眺めて、男子生徒の話を右から左にというよりは、存在を気にしてすらいないといった様子。
2人とも僕の方を向いていないので、気づいていないみたいだ。
これはそっと近づいて驚かすべきであろうか。
作品名:ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。 作家名:ムクムク