ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。
「美島。何か勘違いしてるみたいだから言うよ。あの時僕が君たちを助けたみたいになってたけど、あれはあくまでも結果的に、だ。僕は自分のことをどうにかするのに精一杯だったし、自分のことをどうにか出来たときに、本当にたまたま君たちが助かっていただけなんだよ。だから、期待されても困る。」
「でもこうくんならっ。」
僕の言葉に、さらに美島は追随する。
この子の頭の中の僕はどうなっているのか少し心配になってきた。
紅葉が立ち止まって、僕らを見ている。
「美島。僕は君達の期待に応えられないよ。それに僕は、期待されるほどの価値もない。」
きっと、君の方がよっぽど社会からは必要にされるだろうよ。
僕みたいなやつにくられれば。
「頼むこうくんっ。」
「菜月ちゃん、いいって。落ち着いて。」
木沢が、再び美島を抑える。
なんだか本当に本人よりも隣人のほうが必死に見えてきたぞ。
「あ・・・・・・・・・・・・すまない、梨沙。・・・・それに、こうくんも。」
自分がどんな状態なのかに気づいて、僅かに赤らむ美島。
木沢は、それに微笑みながら美島をなだめる。
「別にいいよ。謝るようなこともでないから。」
「それでもすまない。」
そう言って、美島は頭を下げる。
急に熱くなったりするところは相変わらずのようだった。別に嫌いでもないのでこのままでもいいが。
「美島は友達思いなんだね。」
「え?。」
と首を傾げる木沢。
それに合わせてポニーテールも揺れる。あー、引っ張りたい。
「私に方こそごめんね、菜月ちゃん。私の事なのになんだか菜月ちゃんにばっか喋らせちゃって。」
「気にするな梨沙、大したことじゃない。」
「うんん。ありがとう。」
「礼は貰っておこう。」
どうやら美島は落ち着いたようだ。
・・・・・・・・・ふーむ。
「とにかく。僕じゃ大した力になれないから、きっと。」
「あ、ああ。・・・・・本当にすまなかったこうくん。無理を言った。」
「うん。・・・・・・・・・・・・・・・でも、まあ、」
あれだなぁ、うむ。
少し、違うところから、興味が、沸いた。
「何かあったら、話くらいは、聞いてあげるよ。」
そして、僕がそう言うと。
2人の表情が、特に美島の方が、劇的に、変化した。
「そ、そうかっ。・・・・・・・うん、そうかそうか。」
「・・・・へへー。」
美島は楽しそうに頷き、木沢は笑っていた。僕はいぶかしんでいた。
「さすがはこうくん。話が分かる。」
「うんうん。そうだね。」
「まあ、話だけだけどね。・・・・・それじゃあ、僕らはこっちだから。」
いつのまにか、いつもみんなと分かれる十字路に差し掛かっていた。
「うん、また明日だこうくん。それと薙さん、今日はなんだかすまなかった。」
「あ、そうだよ。ごめんね薙さん。変な話し聞かせちゃって。」
「別に。」
と素っ気なく返す紅葉。
「本当にごめんね。それとこうくん、今日はありがと、それじゃあね。」
そう言って、2人は僕らとは別の方角に向かっていく。
とりあえず僕はそれに、手だけ振り替えしておいた。
で、2人が見なくなってから紅葉に鞄で頭を殴られた。
「・・・・・痛い。」
「今日も、随分遅かったわね。」
「いや、ちょっと手伝ってて・・・。」
「口答えするな!。」
再び鞄アタック。というかやっぱり遅れたこと怒ってたのか。
2人がいなくなったので紅葉は全開だ。
「ごめんさい。」
「最初から素直に謝れ。」
「はい。」
僕は頭を撫でながら頷く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コウ。」
少しして、紅葉が幾分か落ちついた声で僕を呼ぶ。
「なに?。」
「関係、あるの?。」
主語が無い言葉。
でも、僕にはそれが何を意味するかわかる。
「どうだろうね?。まだ、微妙なところ。」
「・・・・・そう。」
紅葉は、僕の答えに一言だけ呟いて、また、歩き出した。
もちろん僕は、それに付いていく。
そして歩きながら、さっきの会話を思い出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うむ。
該当、あり。
だけど。
「どうでもいいか。」
<13章=だりゃ?>
気持ちが高ぶる。
緊張によって心臓が高鳴るのではなく、明らかな興奮をもって鼓膜に響くほどに強く拍っている。
自分はきっと今アドネラリンが溢れかえっていることだろうことが簡単に分かる。
ん?、アドネラリンであってるよね?。
理系はあんまり得意ではないから、その辺はよくわからない。
そんなこと今はどうでもいいわけだし。
なんていっても、頭で考える前に手が勝手に動く。
腰を連動させ、肩から肘にかけての連動率がこれまでになくスムーズだ。
こうなってくると、さすがに自分が馴れてきたんだと実感が沸く。
興奮が他のすべての感情を圧殺してくれているおかげで、まるでぬるま湯に浸かっているように頭の芯がぶれている。
全身の筋肉を使っているせいか、関係のない筋肉がゆるむ。
頬のにやけが隠せない。
こんな下品な顔はあんまりしたくないんだけど。
今はそんなことは気にせずに、体を動かす時なのだ。
両手を上手く躍動させ、渾身の一撃。
・・・・・・・・って、簡単にはいかない。
多少馴れてはきたけど、それでもやはりまだまだ未熟だ。
一発が、どうしても強くない。
それは、数を重ねればカバー出来ることなんだけど。
むかしから、体力には結構自信があろうから、特に問題はない。
声援は、あるわけないから、自分で送っておくことにする。
そこでふと、自分の前にあるものが少し跳ねた気がしたが、気のせいだろう。
こんなもの。
こんな無価値で、無意味なものは。
所詮、この世界にとってはゴミだ。
どこにも必要性を感じられない。
存在するだけで無駄なもの。
自分と同じように。
普遍的な日常を毎日繰り返すだけの、そんな、もの。
だけど。
自分は見つけてしまった。
その存在を。
その人間を。
あの人だけは、違う。
こんなものばかりの世界で唯一。
自分が初めて、価値がるものだと認められた人。
存在する意味があるものだと、分かった人。
きっと一生さがしても、あの人以上の人はもう見つけられない。
確実に。
あの人が欲しい。
自分のものにしてしまいたいぐらいに。
それは、無理だと分かっているけど。
せめて、隣を歩ける程度になりたい。
肩を並べて歩きたい。
それはきっと、すばらしいことであろうから。
その先の未来は、明るいか暗いか分からないけど。
きっと有意義なものになるだろうから。
間違いなく、そうなるだろうから。
そのためには、これが、ちょっと邪魔だ。
さっさとご退場願おう。
2度と、自分と同じ世界に現れないように。
徹底的に。
<14章=みずたまり>
5月20日。本日の天気は晴れのち曇りで木沢さん万々歳だ。どうでもいいんですけど。
とついでに言っておくと、うちの学校は全生徒が絶対になにかしらの委員会に入らないといけない、後部活も。 もかく、なぜかはわからないけど。最近の僕はどうやら定時に学校を出られない呪いでもかかっているようだ。
作品名:ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。 作家名:ムクムク