ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。
でも隣にいる阿東さんがノンリアクション過ぎて僕はどう反応すべきなのやら。
まるでおかしな喜劇でもみてるみたいだ。
「はははっ。・・・・・いやいや、ごめんね。それにしてもおもしろいですね君。」
「はぁ・・・。」
「ははっ。じゃあ、話を続けますけど。」
そう言って唐木さんは、手帳を再び取りだし、その中を捲っていく。
そして真ん中当たりで止め、質問を再会。
ただし、目線は僕をみたままだ。
「君は、死亡した生徒の遺体を見たんですよね?。」
「はい。」
「では、その時の状況を教えてくれますか?。」
「えっと・・・・・・・・・・。」
僕は、今朝の事を思い返す。
「いつも通り登校してきてたら少し騒がしくて、それで周りを見渡してみたら人だかりが出来てたから寄って行っただけです。」
「ほう。でも場所は下駄箱がある方向とは違う所じゃないですか?。何でわざわざ寄っていったんですか?。」
「別段、理由はないですよ。ただの好奇心です。」
それと、わずかな予感がしたからってのもあるけど。
それは、言う必要も、気もないけど。
僕の答えに、阿東さんが少し目を細めた。でも、特に何もいってこない。
相変わらずこの人は、黙っているだけだ。
「そうですかそうですか。・・・・・・・それで、寄ってみると死体があったと。」
「ええ。」
「君が死体を見たとき、それはどんな状態でした?。」
・・・・・・・・・・・・・・。
うむ。
何というか、確信の表面だけを手でなぞってるような質問ばかりだな。
僕は基本的に受け身だから、別になんでもいいけど。
「頭部を中心に血が広がっていました。それと、たぶん男子生徒だと思うんですけど、あお向けに倒れていました。」
「それだけですか?。」
「はい。」
「うん。・・・・・・・・・・・そうですね。それを見て、君はどう思いましたか?。」
「はい?。」
「ああ、すみません。曖昧すぎましたね。簡単に言えば、あなたは彼がどうして死んだんだと思いましたか?。」
「それは、死因はなんだったか事ですよね?。」
「はい。」
と、唐木さんは頷く。
「さぁ・・・、パッと見ただけですし、頭をぶつけたんじゃないか程度にしか・・。」
僕は曖昧に濁すように言う。
けれど、あの死体の状態から、何となく予想は、立ってる。
あくまでも、予想、だけど。
「そうですか。・・・・・・・・うん。実は、ってほどでもないですが、特別教室廉って言うんですかね?。」
「はぁ。」
「どうやら死因はね、そこの屋上から飛び降りた際に、地面に強く頭をぶつけたせいらしいんですよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
ふむ。
「それで即死、というわけです。頭を強くぶつけたのと、他には首の骨も折れてましたからね。まぁ、状況からいっても、飛び降り自殺じゃないかって僕達は考えているんですけど。頭、潰れかけちゃってますし。靴もご丁寧に、屋上に並べて置いてありましたから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・そう、ですか。」
「はい。」
そこで唐木さんは、いったん手帳を閉じた。
僅かに、空気が変質する。
「それとですねえ、ちょっと話がずれますけど、いいですか?。」
「はい。」
・・・・・・・・・・うん。
くる、と思った。
表面をなぞっていただけの手が、中身に、侵入する。
「君、千種一哉って生徒を知っていますか?。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと。」
「知っているんですか?。」
唐木さんは言葉で、僕を追い立てる。
それに乗って僕も、少し加速してみることにした。
「はい。確か、僕の隣のクラスの生徒です。」
「へぇ、そうなんですか。」
唐木さんは、大きく驚いたそぶりをする。
白々しい態度にもほどがあるが、僕も人のことは言えないし。
「それで、その千種一哉くんがどうかしたんですか?。」
僕がそう言うと、唐木さんは僕に顔を寄せる。
「実はですねえ。今回死んだ生徒さん、その千種一哉くんなんですよ。」
「・・・・はぁ、そうなんですか。」
「そうなんですよ。見たときに気づかれませんでした?。」
「いえ、さっきも言ったけどパッと見ただけなんで。」
「ああ、そうでしたね。」
そう言って唐木さんは、顔をにやけさせながら体を戻す。
うん。・・・・・・・まだ、浅い。
確信にだいぶ近い予感だけど、まだ何かある。
唐木さんは、椅子に深く腰掛け、僕を見据えて言った。
「それで君とその千種君、何か特別な関係とかありましたか?。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ふーん、なるほどね。
分かった分かった。
確信に触れる前置き。
そして僕がその質問にいいえと答えると、唐木さんは再び身を乗り出した。
「実は君が、昨日その千種一哉と言い合いをしていたとふれ込みあったんだが。」
ただし、質問してきたのは阿東さんだった。
「これは、本当か?。。」
唐木さんとは対照的な、明らかに相手を威圧してる声。
相手に言わなければいかない雰囲気を作り出す言い方だ。
唐木さんは、今は僕の方を口の端だけ笑って見ているだけだ。
役の、チェンジか。
「ええ、本当ですよ。」
僕が頷くと、いつのまに取り出していた手帳に、唐木さんは書き足している。
かりかり、かりかりと、相手を急き立てるように。
「何を話したんだ?。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
あー、どうしようか。
そっちに飛ぶと、どうしても、なぁ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。
仕方ない、か。
加速に、まかせてしまおう。
「別に、大したことじゃないですよ。ただ、昼休みになると僕が、隣のクラスにいる友達のところで一緒に食事をとるんですが。それが彼は気に入らなかったみたいで。その事で少し文句みたいな事を言われただけですよ。隣のクラスやつがこっちに来るな、みたいな感じで。」
「それだけか?。」
さらに低くなった阿東さんの声。
「ええ。それだけです。それ以上も、以下もありませんよ。」
「取っ組み合いになったりとかはしなかったのか?。」
「ないですね。僕は平和主義ですから。」
「・・・・・ふん。その時に千種一哉の様子に不審な様子はなかったのか?。」
「さぁ、どうでしょう。僕は彼の普段を知りませんし。話したのも、昨日が初めてでしたから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
口を閉ざす阿東さん。
眼鏡の奥の目は僕の方を見てるけど、思考しているのは明らかだ。
でも、と僕は思う。
これで、今回は終わりだ。
とりあえず、この2人の底は、把握した。
相手はたぶん、まだ僕の事を掴みきれていないだろうが、これ以上、話しを続けることもない。
それに、もう。
「うん。」
その時、学校中に、授業終了の合図が、鳴り響いた。
さっき此処に移動してくる時に鳴っていたから、これは3時間目終了の合図だろう。
その音を聞いて、唐木さんと阿東さんは目を合わせ、頷き合う。
「ああ、長らくすみませんでしたねえ。もう結構ですよ。ありがとうございます。」
そう言いながら、唐木さんは立ち上がる。
「いえ、こちらこそ。何も大したこと無くてすみません。」
僕はそれに答えて立ち上がった。
阿東さんは、すでに無言で立ち上がっている。
作品名:ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。 作家名:ムクムク