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メギドの丘 三章

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第三章 知られざる世界、そして理とは

 神谷当夜は、真夜中の人気のない道を全力で走っていた。
 それはもう、全力で。ただただ必死の思いで。
 (なんなんだよ、あいつらは!)
 しばらく直線に突き進み、急に右に曲がり、能力を駆使して低い建物は飛び越える。
 この一連の流れをかれこれ三十分は続けていた。
 いかに身体の持つ能力を最大限まで使用することが出来ると言っても、長くは続かない。能力を使い続けたまま逃げ回っていたら、いくら当夜であろうとものの数分で身体にガタがくる。いわば、当夜の能力は燃費が著しく悪いレーシングマシンみたいなものだ。いかに、目を見張る速度を出せるレーシングマシンであろうと、最高速でアクセルをベタ踏みしたら燃料が切れてしまう。当夜も似たようなものなのだ。
 (いつまで追ってくるんだよ)
 当夜を、追いまわす謎の二人組も能力者なのかしっかりと当夜のスピードに付いてくる。一人が移動系の能力者、もう一人が攻撃系の能力者なのだ。たびたび身の回りで起きる小規模な爆発、相手の移動速度で当夜はそう判断した。
 「なんなんだよ! マジでよおおおお!」
 当夜は、人気がないことを良いことに、腹の底から全力で叫んだ。

 そんな当夜は、沖縄の海で意識を失った後、丸一日、目を覚まさなかった。
 そして夢を見ていた。
それは、かつて聞いたことのある声が何かを語りかけてくる夢だった。
 暗闇の中に真紅に浮かび上がる瞳をした者が語りかけてくる夢。しかし、断片的にしか声は聞き取れない。当夜が、何か言おうとしても声が出ない。
 「・・・・・・遺伝子・・・・・・完成・・・・・・・・・・・・わたしは・・・・・・」
 かつてと唯一違うところは、その語りかけてくる者の顔がぼんやりと確認できるということ。
 その漆黒に染まりながらも、ぼんやりと浮かび上がる顔は当夜に似ていた。
 その時、当夜は『夢』という感覚とはどこか違う感覚がするということに気がついた。
 そこで急に目が覚め、時計を確認すると夜中の三時だった。
小腹がすき、コンビニに向かう途中で謎の二人組に襲われ、今に至るのだ。
 
 草木も眠る丑三つ時、二人組に追われること四十分。当夜は業を煮やし、相手を引きつけることにした。相手に気付かれないようにわざと逃げる速度を落とし、逃げ回るルートも法則性を持たせた。
 徐々に相手との距離が近づいて来ているのを背中越しに当夜は感じた。
 当夜は、相手がうまく罠にはまっていることを確信し、夜空に輝く星空へと向けて跳躍した。もちろん攻撃態勢で。
 当夜が、跳躍した瞬間、背後の一人の気配が忽然と消えた。
 そして、すぐに目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
 (やっぱり、結と同系統か)
 歪みが、歪みではなくなり、一つの形へと変わった、当夜は相手の顔面を鷲掴みにし、渾身のひざ蹴りを叩きこんだ。
 「このっ!」
 メキメキ! と相手の鼻骨、顎骨が不快な音をたて砕け、辺りに血色に染まった幾つもの歯が飛び散った。
 もちろん相手は意識を失い、重力加速度に身を委ね落下を始めた。
 それに伴い、当夜も着地、そしてすぐに加速。
 当夜が、踏み込んだアスファルトが悲鳴を上げ、亀裂を生んだ。
 百八十度方向を変え、韋駄天の如くもう一方の襲撃者へと襲いかかった。
 当夜が、もう一方の襲撃者の元へ辿り着くまでに、視界の端で爆発を確認したが、今の当夜を捉える事は出来なかった。
 相手が右腰にぶら下げていたベレッタを抜き、構えようとした瞬間に、当夜がそれを奪い去り逆に相手の眉間へと付きつけた。
 相手のすぐ後ろは、商業ビルの壁。全ては、当夜の計算通りだった。
 更に、顔が一瞬で引き攣った相手の顔、数ミリ横に右足を叩きつけた。
 当夜の形相、勢い、圧力、力、全てに屈したかのように相手は壁伝いに座り込んだ。
 当夜は、相手の眉間にベレッタを突きつけたまま静かに聞いた。
 (こういう役回りって俺じゃなくて、涼が似合うと思うんだよなぁ)
 なんてことを考えながら、当夜は率直に聞いた。
 「で、なんなの? お前ら」
 しかし相手は全く持って答えようとしない。良く見ると十代半ば金髪碧眼の少女だった。
 ガチャリ、と機械的な音を響かせながら当夜はカードリッジを引いた。
 「誰の命令だ? お前らも第六感の能力者だろ?」
 当夜は、重く静かにゆっくりと、相手を蝕む生き物のように語りかけた。
「・・・・・・ローマ教王。わたし達の組織のトップです。それしか分からりません。わたし達は、神谷当夜の暗殺を命令されただけなんです」
 重々しく口を開いた少女から発せられた言葉は、当夜に大きな衝撃を与えた。
 「んなっ・・・・・・!」
 「驚くのも無理ないと思います。わたし達だってこんなことしたくありませんでしたから」
 「何で、組織のトップが俺の暗殺を・・・・・・」
 「だから分かりませんよ。わたしが知りたいくらいです。悪魔ではなく人間を殺すなんてわたしには出来ません」 
 外国人の少女は流暢な日本語で話し続けた。
「わたしはバチカン総本部に所属しています。今回の一件でこの組織に疑問を抱きました。バチカン総本部部長は、わたしの能力が暗殺にも使えるということで任命したんでしょうけど間違いですね。わたしは、調べ上げますよ、今回の一件を。というよりも最初から当夜さんと協力するつもりでした」
「はぁ? あんだけ人を殺そうとしといて協力ってなんだよ」
「すみませんでした。でも、あの爆発は能力ではありません。一般的な手榴弾よりも格段に威力を下げたお手製の爆弾です。わたしともう一人いましたよね? あの方は本気で当夜さんを暗殺しようとしてました。なので、わたしも暗殺するフリをしてました。尾行の心配もありましたから・・・・・・本当にすみません」
当夜は、この少女が嘘を付いていないのだけは分かった。今の能力を駆使した当夜には、その人の瞳孔の動き、滲む汗、表情、筋肉の収縮、などで嘘か真か一瞬にして分かるからだ。
そして当夜は思考を加速した。
奏たちとバチカンへ向かうか、単身バチカンへ向かうか。
しかし、奏達を引き連れバチカンに向かうという策は、当夜の中ですぐさま削除された。
もしかしたら、奏をはじめとするメンバーを危険な目にあわせるかもしれない。
それこそ当夜個人の問題で。皆は、一緒に来てくれるかもしれない。しかし、やはり危険な目にあわすわけにはいかない。
そして何よりも、当夜は皆には日本の安全を守ってもらっていたかった。
残る当夜が単身バチカンに乗り込むという手段。
これはあまりにも危険すぎる。見知らぬ地に単身で挑むなど。ましてや、この組織は当夜の敵へと変わりつつあるのだ。そしてバチカンは本拠地。あまりにも危険なのだ。
全く訓練を受けていない兵士が一人、敵陣へと特攻していくようなものだ。
加速する思考の中、当夜は賭けとも言える一つの結論を導き出した。
 「お前が嘘を付いてないのは分かった。俺も今回のことは疑問に思う。けど、どうするんだ、これから。俺はバチカンに行くぞ」
 そう、今さっき出会ったばかりのこの金髪碧眼の少女と手を組むこと。
作品名:メギドの丘 三章 作家名:たし