ファーストフード
雑踏の中、いくつもの人波が通りすぎる。ざっさっと音を立てながら。
それを、ガラス張りのファーストフード店の中から見るとはなしに眺めている。
「なぁ、よく『足元を見る』って云うやん」
俺は口を開く。
「うん」
「でも、普段足元って見る?」
「どうやろう。気にする人は気にするんちゃうかなぁ」
「元々は旅人の足袋や草履の汚れ具合で値段を変えるっていう、日本的な言葉やけど、今は靴やし、汚れ具合で一概には言えんよなぁ」
「今はそのまんまの意味で足元を見るを使ってるやろ」
「言葉の意味は時代と共に……か」
「俺は、足元ってすげー気になるんだよ」
言われた友人はきょとんとする。
「そうなんや」
簡潔に返される。どう返事をすればいいのかあぐねたのだろう。
「足っておいしそうやと思えへん?」
「はぁ?」
今度は驚きもしくは呆れるような返事だ。
「まぁ、脚にフェチズムを感じるやつはおるけどなぁ」
紙コップのストローに口を付けながら「ジュルル」と音を立てながら付け加える。
「それはちょっと違うんよなぁ……。俺は靴がないとダメなんや」
「何や、それは」
紙コップのプラスチック蓋を開け、中の氷を口に含みながらあきれ顔だ。
「靴っておいしそうやん?」
「いや。地面に接してるし汚そうだ」
「靴紐なんかパスタみたいやん」
「いやいや、そんな風には思えへんて」
「そこにさらにきれいな足がついてたら最高やな」
「いらっしゃいませー。ご注文お決まりですか?」
「牛革シューズのLと靴紐ポテトM」
「ドリンクはお決まりですか?」
「ジンジャーエールで」
「かしこまりました」
「そんな風に気軽に食えたらええなぁと思うけど、実際は有毒化学物質を接着に使ってるから無理やねんなぁ」
「ふーん」
俺の妄想はスルーされた。
「渋なめしでなめした靴やったら食えるらしいけど、そんな靴あんまりないしな」
「ハンバーガー食いながら、靴食べたいとか言うやつは、普通変って云われるわな」
「まぁ、変なんはわかってるけどな。なんか話をつなごと思ただけや」
「お前、ヒマなんやな」
「ヒマなんやない。妄想で時間をつぶせる技術を試してるだけや」
トレイを持って、席を立つ。受けなければいけない講義の時間だ。
でも、妄想やけど、靴は本当に食べてみたい。きっと靴の味がするだろう。