【完】恋愛症候群【過去作】
大学生活
「あいしてるんだ」
嗚呼、やめて。
「俺と付き合って」
その言葉をそんなに軽々しく口にしないで。
「あれ、林?」
顔をあげると目の前には、高校の同窓生である阿木シュウが、自分の顔を覗き込むように立っていた。
「……あ、き…?」
「驚いた。化粧してるんだ?」
高校時代と変わらない淡々とした表情で、でも笑みは柔らかく、この阿木秋というシャレのような名前をした男は微笑んだ。
髪も染めてなければ、ピアスだってしていない。なのに、同年代の男子より大人びた風貌。
流れで、私の隣に座ると、ゆったりと足を組んだ。
「懐かしいな。綺麗になったね」
昔は嫌いだったその言葉も、まさか自分が言われる方になるとは思わなかった。
どうせ社交辞令だ、と決めつけ、『ありがと』とぶっきらぼうに言うと、秋はクスクスと笑った。
「どうしたの?ぶすっとしちゃって」
「……別に」
ただ、嫌な事が重なっただけ。
それだけ。
「そういえば、近々同窓会があるらしいね」
「ふぅん」
「あれ、知らない?」
「アドレス全部消えた」
ちなみに自分のアドレスも何回かかえた。と言うと、阿木秋は『だからか』とわけしり顔で呟いた。
「携帯かして」
「なんで?」
「俺のアドレス登録しとく。同窓会の事とか連絡するよ」
貸す、というよりは半ば奪うように携帯を取り上げ、阿木秋はなめらかに自分のアドレスを打ち込んだ。……赤外線があるのにな。
「はい」
「あ、うん」
「じゃ、メールするよ」
バイバイ、と小さく手を振って、風のように去っていった彼を見て、千歳は思わず呟いた。
「女タラシみたい」
その日の夜、知らない番号から電話がかかってきた。
疑問に思いながらとると、阿木秋で、なんだか後ろからもう一人男の声がした。
「……彼氏?」
思わず呟くと、阿木は『まさか』と言った
「タカシだよ。今俺の家で呑んでる」
「ふぅん」
「そうそう、同窓会の時間と場所がわかったから、メールするね」
それだけ言うと、阿木はまた『バイバイ』と言って電話を切った。
最初からメールすればいいのに、と思ったけど、まあそこがちょっと変わり者の阿木らしい、なんてクスリと笑えるようになった自分は、本当に自分なのだろうか。
バイブ音が鳴って、携帯が阿木からのメールを告げていた。
作品名:【完】恋愛症候群【過去作】 作家名:木白