【完】恋愛症候群【過去作】
一つの終わり
それからは毎日が淡白だった。
千歳とは『ただのクラスメイト』に戻り、普通の会話しか無い。
何より進路を決めるのが忙しくて、恋愛どころでは無くなってしまった。
気がつくと、もう、卒業式が終わっていて、俺は一人ポツンと、理科室わきの階段に座っていた。
「あ」
パタパタと歩く音がしたと思うと、階段の上に、携帯を片手に千歳が立っていた。
後輩にもぎ取られたのだろう。ブレザーのボタンは一つも残っていなかった。
「アキラ、君」
驚いたように目を丸くした後で、無惨なブレザーを見る目に気付いたのか、千歳は苦笑した。
「サキ達に取られちゃった」
サキ、とは、確か熱狂的な千歳ファンの女子だったと思う。
前はよく、千歳の会話に出てきた後輩だ。
「大変だな」
「まあね。てか、愉快な仲間達が捜していたよ?」
俺との関係なんて何も無かったかのように、千歳が俺の隣に座りこんだ。
そして携帯を片手にカチカチやり始める。
「千歳、」
そう言うと、千歳が『んー?』と唸った。
「ここだったよな。千歳が俺に告白したの」
千歳の動きが一瞬止まり、また苦笑を浮かべる。
「だって此処、あまり人が来ないからね」
「ちょっとだけ考えてたんだ」
何が悪かったのか。何がいけなかったのか。考えると何一つ『本当に』悪かった事なんて無くて、ただ俺達が若かっただけ。何も知らなすぎただけ。
千歳は千歳の理論があって、それだって、悪い事じゃないんだ。
そう、まとまらない話を言うと、千歳は『…そうだね』と笑った。
「私たち、彼氏彼女は無理だけど、親友としてなら、良い付き合いになりそうだ」
「……嗚呼」
足音と声が聞こえて、シュウとタカシが近づいてくるとわかった。ああ、千歳はアイツラにメールをしていたのか。
俺は立ち上がり、階段を少し登って千歳を見下ろした。
小さな、小さな千歳。
俺が大好きだった、千歳。
「またな」
そう言うと、千歳は振り向かずに手を振った。
【高校時代編・終わり】
作品名:【完】恋愛症候群【過去作】 作家名:木白