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はだしの王様

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 次の日の休み時間。トイレから教室に戻っていると浩介の怒鳴り声が聞こえた。僕は急いで教室に入った。見ると浩介と淳也が向かい合っている。ついに浩介がキレたらしい。教室は野次馬で溢れかえっていた。
 「おい。俺の上履きどこにやったんだよ! 返せよ!」
 淳也は動じることなくせせら笑う。
 「は? 何言ってんのお前? 上履き履いてんじゃん。あっ、そうか。馬鹿だから見えないのか」
 その言葉に観衆がどっと沸く。浩介は殴りかかるのを何とか押さえつけている。淳也はそんな浩介の様子なんてかまわず続ける。
 「なあ? お前も見えるだろ?」と亮太に聞く。
 「もちろん。どっかの馬鹿じゃないからね」
 「お前も見えるよな?」と響子に聞く。
 「見えてるよ」
 「見えるだろ?」潤平に聞く。
 「見えないのは、はだしの王様だけじゃねーの?」
 その後も弘一、雅美、克己、圭太、香苗と聞いていく。みんな見えると答えそのたびに浩介の顔が青ざめていく。
 まずい。この流れだとここにいてはいけない。気づかれないように教室を出ようとすると淳也と目が合ってしまった。
 「もちろんお前も見えるよな?」
 やっぱりだ。早めに出ておくべきだった。ここで見えるといってしまうのは簡単なことだ。しかしそう答えてしまったら大事な物を失ってしまう気がする。
 僕が答えに窮していると淳也はいらだって声を荒げる。
 「見えるかどうか聞いてんだよ。早く答えろ」
 その時浩介の方を見てみるとあの寂しそうな目をしていた。僕はふとはだかの王様の話を思い返した。見えもしないものを見えるというやつが愚かなんだ。
 「いや、浩介は裸足だ」
 教室の空気が一気に固まった。淳也も顔が引きつっている。だけどかまうもんか。
 「浩介の上履きを隠したのは淳也たちなんだろ? 返してやれよ」
 自分でも驚くほど堂々と声が出た。淳也が怒りに顔を染めているけど、浩介のことを見たらどうでもよくなった。あの寂しそうな目は消え去っていたからだ。
 教室は永遠と沈黙が続くかと思えたが、チャイムが鳴りみんな自然と席に着く。先生が入ってきてクラスの様子を見て「みんな腹でも壊したのか」なんて見当違いな事を言っている。その言葉に僕だけ笑った。
 
 次の日。自分のところの下駄箱を見ると上履きが無い。予想していた事だとはいえ、やっぱりショックだ。
 「おはよう」
 声のしたほうを見ると浩介が立っていた。上履きは戻されている。
 「ごめんな。俺のせいでこんな事になっちゃって」
 こうして普通に話しかけてくれたことに軽く泣きそうになった。もしかしたら僕がしたように、浩介は僕と距離を置いてしまうのではないかという不安があったからだ。僕は涙を抑え浩介に話しかける。
 「いや、いいんだよ。それより、上履き探すの手伝ってくれない?」
作品名:はだしの王様 作家名:ト部泰史