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はだしの王様

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浩介は下駄箱の前で立ち止まっていた。通り過ぎる時にちらりと浩介の下駄箱を覗き見ると上履きが無い。また淳也たちの仕業か。
 僕は浩介に話しかけようとしたけど、なんて声をかければいいのか分からない。結局何も声をかけられないまま、靴を履き替え教室へと向かった。背中に浩介の視線を感じ自然と足早になってしまう。
 浩介はいじめられていた。きっかけはたいしたことじゃない。クラスの人気者の淳也にちょっと口答えしたというだけだ。それからというもの浩介の持ち物を隠すといった陰湿ないじめが始まった。
 特に上履きは毎日のように隠されていた。授業が始まるまで見つからず、仕方なく裸足で授業を受けるということが続いていた。その様子を見て淳也たちは、はだかの王様をもじってはだしの王様なんて馬鹿にしていた。
 当然裸足で授業を受けていることは先生にもバレたが、浩介は「上履きを無くしてしまって」とごまかしていた。こういう問題に大人を介入させると、ろくな事が無いという事を浩介はよく分かっていた。周りのやつは笑いをこらえるのに必死だった。
 
 僕と浩介は友達だった。小学校の時からよく一緒に遊んでいた。でも浩介がいじめられるようになってからは、意図的に距離を置くようになってしまった。淳也たちのいじめが僕に飛び火するのが怖かったからだ。浩介がいじめられている時になんどか助けようと思ったけど、僕は周りに合わせて笑うことしかできなかった。あの時、僕を見た浩介の寂しそうな目が忘れられない。
 部活が終わり、帰ろうとすると教室に浩介がいた。上履きが見つからず、まだ探しているらしい。浩介は僕に気づくと一瞬顔を向けたけど、すぐに上履き探しに戻った。僕はすこしどうしようか迷ったけど探すのを手伝うことにした。
 互いに無言で探し続ける。二十分後。校庭の植え込みを探すと木の根元に上履きが置かれていた。
 「あったよ」
 僕は浩介に声をかける。浩介は振りかえる。心なしか嬉しそうに見える。
 「あ、ありがとう」
 上履きを渡したけど特に会話が無い。気まずくなったからじゃあなと言って僕は先に帰った。昔は会話なんていくらでも出てきたのに。どうしてこうなったんだろう。
作品名:はだしの王様 作家名:ト部泰史