氷針の降りしきる中
源は「えっ?」と間の抜けた声を漏らして聞き返した。もう一度、だが先ほどより力強く北条は言う。
「もっと引っ付いて歩けば大丈夫だよ! ほら、この傘重いでしょ。一緒に持と?」
北条は源の傘を持つ手に自分の手を重ねた。「あっ」源が思わず息を漏らす。
北条はドクンドクンと氷針の音をかき消すほどに高鳴る心音を、必死に宥めようとする。今なら氷針の下を駆け出しても、体から発せられる高熱の体温で体に触れる前に溶かし尽くしてしまえそうに思えた。
「……そうだな。なら、ほらちゃんとくっつけよ」
そう言って源は北条の肩を左手で抱き寄せた。触れた源の胸元が自分と同じく騒々しく脈打っているのを感じ、北条は安堵するように柔らかく笑んだ。
鋭く地上に降り注ぐ氷針の下、一つの傘に二人の男女が並んで歩く。轟音に包まれている中、互いの声がしっかり届くように、耳元に口を寄せ合って談笑する姿はとても絵になっていた。
それを後ろから見ている東堂院は呆然としていた。今、自分の目の前で繰り広げられた甘酸っぱい青春劇に開いた口が塞がらない。
「あ、ありえない。北条が、あんなやつと……」
苦々しげに源を見つめるが、どうすることもできない。
自分も北条とあんな風に仲良く下校したい、そう東堂院は強く願い、そのためにどうすればいいか考えを巡らせた。そしてすぐにある方法に考えが至った。
おもむろに鞄から携帯を取り出した東堂院は、アドレス帳を開いてどこかに電話をかけた。数回のコールの後、相手が電話に出た。
「どうした? 何か用か?」
「うん、パパ。仕事中にごめんね」
相手先は東堂院の父親だった。
東堂院は不敵な笑みを浮かべる。そしてこう言った。
「今日さ、帰りに最新型の傘買ってきてよ。うんとおっきくてカッコいいやつ」