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氷針の降りしきる中

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「それじゃあ皆さん。今日は氷針が降っていますので、注意して帰ってくださいね」
 先生の号令をもって帰りのホームルームが終わった。生徒がわいわいと騒ぎながら下校の準備を始める。「すっげー、東堂院くん! それって最新のアーマー雨合羽じゃん!」
 教室の隅に小さな人だかりが出来ている。その中心で東堂院と呼ばれた生徒が、自慢げに真白のスーツのような服を他の生徒に見せびらかしていた。
「まあね。パパに頼んで買ってもらったんだ」
 東堂院は鼻を鳴らして言った。
「最新型のカーボンナノ繊維で作られた雨合羽さ。耐久性はもちろん、従来のものに比べて重量が五〇%カットと着心地も最高のものだよ。氷針の危険からこれまで耐久性ばかり追求されてきたけど、これからはファッション性や利便性も重要になってくるよ」
 つらつらと自慢の雨合羽について語る東堂院の背後からは、ザーザーけたたましい音が鳴り響いている。窓からは、無数の氷の針が天空より降り注ぎ、校庭一面に小さな氷の柱が突き立っている光景が覗ける。
「いいなぁ。俺なんてまだスチールの傘使ってるんだぜ」
取り巻きの一人がぼやく様に言った。それを聞いた東堂院は、鬼の首を取ったように喜々としてまた熱弁をふるう。
「ははっ、まあアーマー雨合羽は高価なものだからしょうがないよ。それにしても、いまだにスチール製の傘とはね、可哀そうに。あれは重いから片手に持つには不便だし、安全性も全然だ。そして何より、氷針を弾く時の金属音がうるさい。あんなに喧しくされちゃ、滅入っちゃうよ」
 嫌味ったらしくスチール傘を非難する東堂院は、人知れずチラリとある生徒に目を移す。教卓の丁度真正面となる席で、黙々と鞄の中に教科書を詰め込む女子生徒。同じクラスの北条である。
何を隠そう、東堂院は北条のことが好きであった。
 だからこうやって最新のアーマー雨合羽を学校に持ってきて少しでも気を引こうとしているわけだが、一向にこちらに興味を示す様子のない北条にじれったく感じていた。
 北条は鞄の中に教科書類を全部詰め終えてしまった。だが、東堂院の方を一瞥すらすることなく教室の外へ出ていってしまった。これを見た東堂院は慌てて、
「じゃ、じゃあ、話はここまでにして、そろそろ帰ろう!」
 と告げてそそくさと北条の後を追った。

作品名:氷針の降りしきる中 作家名:そあく