Estate.
Estate.
―――夢のようだったひと夏。あの夏の中の青年に、私はいつかまた、会えるだろうか。
そう文章を締めて、ペンを置いた。
文字にするたび、ひとつひとつ思い出す、サキ。
10年の月日が経っても、一つも色あせない。
子供のような笑顔、大人びた横顔、誰より強い泣き顔、鮮やかな歌声。
思い出と片付けるには、あまりにも鮮やか過ぎる記憶。
あの夏から時が経ち、俺のまわりは随分と変わったけれど、いつまでも色褪せないあの夏の名残は、今も変わらずに在り続けていた。
なあサキ、お前今、どうしてる?
『――夢みたいな夏をね、過ごしたんです。』
その時、ふいに届いた、声。
『ある人と二人きりで、本当に夢みたいな夏を過ごした。その夏に一つ、俺は大事な約束をしたんだけれど、その約束が、今の俺を形作ってる。この歌は、その約束の形です。―――どうか、届きますように。』
『――Estate.』
あの夏の青が、目の前に広がった。
必ず探し出す。
あの約束は、今でも有効か?サキ。
Fin.