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VARIANTAS ACT 17 土曜の夜と日曜の朝

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 空力カウルが風を切る中、予定高度へ降下する機体は、カナード翼により水平を保持。
 雲海に突入。自動航行システムに則り、予定軌道を滑空する。
「予定高度まで10」
 雲を抜ける。Oscarの声と同時に、ブースターユニットと重力制御装置が目を醒まし始めた。
 唸りを上げる機体。
 予定高度到達。重力制御装置起動。
 その瞬間、両舷合わせて200tの推力を発揮する二基のブースターユニットが、空力カウルに包まれた彼の機体を疾駆させる。
「現在、速度1500ml/s LZまで15000。ブースターカットオフまで5…」
 市街地上空に到達。敵の予測射界に侵入。
 デコイ射出。同時に、ブースターユニットをパージ。空力カウルが割れ、機体は空気抵抗とスラスターで減速、衛星からの地理情報と機体ヘッドセンサーの対地スキャン結果を合成して表示されるコースに沿って降下する。
 足元に広がる荒廃した旧市街。
 着地まで250m。その時だった。 
「レーダーに感。 IFFは…三騎のHMA?」
「生存者…か?」
「いえ、あれは…」
 Oscarの言葉の途中、突然コックピットの中に警告音が鳴り響いた。
「レーザー着信。 対装甲ミサイルです」
 ビルの谷間からミサイルが撃ちあがる。三騎のHMAが、突然ミサイルを撃ってきたのだ。
 機体レーダーが、三発のミサイルを捕捉。
 チャフ散布。
 二基のミサイルが軌道を外れ、虚空で起爆。
 残り一基が接近。
 ADS発動、ミサイル迎撃。機体の目の前で爆炎が散る。
「リモート操作か…! Oscar、コントロール元を逆探知!」
「敵を引き付ける事になりますが?」
「ふ…やってみるさ…!」
 不敵な笑い。
 敵機捕捉。着地点から砲火が上がり、機体を掠める。
 射線を回避し、急速に降下。
 敵機は彼の動きをライフルでなぞるが、単純なリモート操作はどうしても動きが散漫で追跡することが出来ない。
 敵機まで、十数メートル。
 重力制御をカットし、荷重を一気にかけて敵機の頭を踏み潰して、再び重力制御をオン。前方にジャンプして、タッチダウン。
 単分子ナイフを右手で抜き、逆手に持つ。
 3時と12時から、さらにHMA一機ずつ。
 敵機は同時にライフルを発砲するが、彼はそれを回避し、最も近い一機に接近。間合いをつめると、逆手にもったナイフをフックのようにしてライフルに引っ掛けて逸らし、敵機から見て右側へ入る。そして、敵機の顔面に左腕を押し当て、上体を反らさせながら大腿部にナイフを突き刺して自由を奪い、ライフルを取り上げて、もう一機の敵へ向かってフルオートで発砲する。
「今だ、Oscar!」
 グラムの声に応え、Oscarの逆侵プログラムが彼に捕まっている機体に入り込む。
 センサー系を経て、機体操作系へ伝播。
 メインシステムに介入。
 IDMに侵入。
 防壁を突破。
 後は座標を… 
「Oscar!」
 弾切れになったライフルを捨て、グラムが叫んだ。
 崩れる敵機。
 座標特定。
「探知完了。 位置は…、そんな…! Romeoの真後ろです!」
 グラムの背中を走る悪寒。
 Oscarの声に反応し、機体が彼の操縦に応える刹那の瞬間突然、背後のビルの壁面が砕け、機体に巨大な鉄骨が振り下ろされた。
 スラスターを噴射し、その場で180度ターン。
 鉄骨を、捕らえた敵機で防御。
 敵機の頭と胴体が、ぐしゃりと潰れる。
 一瞬だが、確かに見えた。
 白い、風に吹き飛ばされているシーツのような、不定形の物体。
 彼は潰れた敵機を蹴り飛ばし、腰部にマウントされた120mm44口径長軽野砲を抜いて構え、ビルへ向けて発砲。
 物体は射線を回避。
 野砲に装填したキャニスター弾は、至近距離で発射したせいで十分に拡散せず、総重量11kgのタングステンペレットの塊のまま初速1500m/secで着弾。ビル外壁面に大穴を穿つ。
 物体を追尾。
 しかし、機体レーダーには不精確な干渉波が映るだけ。
 IRにも感無し。
 物体が纏っているのは、どこかの部隊が残した野戦陣地用の隠蔽シートの切れ端を繋ぎ合わせた物だ。
 目標の大きさとも相俟って、動いていてもこのステルス性能。止まっていれば、捕捉は不可能だろう。
 視界に再び物体が映る。
 物体はビルの壁面をまるで重力に逆らうかのように駆け、右手に持った超大形の拳銃を機体の間接部に向かって発砲。
 グラムは弾丸を左腕装甲で防御する。
 左腕25mmガトリング機関砲をスピンアップ。
 手動照準。
 ガトリング機関砲を物体へ向け、トリガー。
 物体は高サイクルで吐き出される対装甲用焼夷徹甲弾と焼夷榴弾の破片と爆炎を背後に受けながら、何かの信号を発信した。 
「警告! IED!」
 次の瞬間、機体そばのビルが次々と爆発。
 グラムは崩れ落ちる瓦礫を避け、崩落するビルに飲み込まれる寸前に空中へ退避するが、物体は機体に追い付き、迫ってくる。
 物体に向かって軽野砲を発砲。
 近距離で発射されたキャニスター弾は物体を飲み込もうと迫るが、物体は腕を薙ぎ、散弾の雲を切り裂いた。
 ざあぁっ…、と散りぢりになるタングステンペレット。
 散弾は、物体そのものに対しては何一つ加害した様子は無い。だが、物体表面のキャンバスを剥ぎ取って、真の姿をさらけ出させる事は出来た。
 巨大な体躯に、耐弾装備であろ分厚いロングコートを身に纏った、戦場の亡霊…
 対機甲機械化猟兵・ファントム。
 そして間合いを詰めたファントムは右拳を振り上げ、機体を力任せに殴り付けた。
 力任せ。そう、ただの力任せだ。
 だがその破壊力は機体を叩き落とすには十分だった。
 スラスターでどうにか姿勢を正し、逆噴射で減速、着地。
 レーダーに感。12時方向に高エネルギー反応。砂埃の中に、こちらに銃口を向けるファントムの姿。
 ポンプをスライド。
 軽野砲に装填された弾薬は、始めから順にAPFSDS一発、HEAT-MP二発、キャニスター弾二発の計五発。先にキャニスター弾二発を使ったから、今装弾した弾種はHEATーMPだ。
 グラムは、軽野砲の砲口をファントムに向けてトリガー。同時にファントムも、左手に持つ巨大な拳銃を発砲。
 同じ射線上に位置する二つの飛翔体は空中でぶつかり合い、HEAT-MPが起爆。
 ライナーを撃ち抜かれ、単なる榴弾として爆ぜたHEAT-MPに対し弾丸の方は、未だその運動エネルギーを失わず、機体右側頭部のすぐ傍を通過。
 次の瞬間、空中で起爆したHEAT-MP弾の爆炎を割って出たファントムは機体に肉薄し、背中から巨大なブレードを抜いて振り下ろした。
 グラムは左腕でブレードをガード。
 ブレードが25mmガトリング機関砲の砲身に食い込み火花を散らしたその瞬間、彼は左腕を振り抜いてファントムを弾き返すが、ファントムは空中で身を翻して左腕の袖口からワイヤーアンカーを打ち出し、機体胸部の装甲に吸着。それと同時に、ワイヤーに莫大な電力が通電した。
 ワイヤーは、ジュール熱によって瞬時にプラズマと化す。しかし、それよりも早く、電流は機体の絶縁能力を超えて伝播し、過電流防止回路を誤作動させて機能を停止させ、HMAを石の柩と変える。