人間屑シリーズ
人間の屑は落ちた所でゴミなのだ
私とクロが出会ってから、早二ヶ月が経過しようとしていた。
クリスマスイブを明日に控え、街はクリスマスムード一色だ。
そんな中、クロと私は久しぶりにメールで指示を出す事となった。
相手は崎村からの契約者だった。
崎村は既に九人との契約を果たしており、その九人全員が生存していた。
実に優秀な契約者だったのだ、崎村カオリという女は。彼女は人を堕す事に何の躊躇いも抱かなかった。遠い昔にどこかに感情を置いてきたんじゃないかと思う程に、淡々と会員数を増やしていった。
その崎村から直接メールが来たのだ。
『今度の相手は必ず生存する。そのサポートに回りたいからメールを頼みたい』と。
私と崎村には既に面識があった。といっても私は主犯としてでは無く、あくまでも崎村の“先輩”として会っていた。私は崎村より早く“十人の会員を集めた人間”として、崎村と何度か直接に会って会話していた。
崎村は私の語る契約プログラムのノウハウを真剣な眼差しで聞き、そしてそれを確実に実行していった。
何が彼女をそこまでさせるのか、その心の深淵は分かるはずも無かったが、彼女が一人目の契約者となった事は、私達にとって最大の幸運だったと言っても良いかもしれない。
その彼女から直々の申し出である。
余程の自信があるのだろう。私達は何の迷いも無くその申し出に乗り、対象へのメールを引き継いだ。
崎村は明日には対象と会うらしく、二十五日には契約を破棄させると言ってきた。
「さて、それじゃあ出かけようか」
クロはそう言って真っ黒なコートを羽織った。
「どこへ?」
私が尋ねるとクロは、見る者全てが引き込まれるような澄んだ笑顔でこう言った。
「明日はクリスマスイブだよ? そのプレゼントを買いに行くのさ」
「プレゼント……? 誰に?」
「君に決まってるだろ、シロ」
私は少しドキリとして、気付いた時には急速に顔が赤面していった。
*
イルミネーションが瞬く夜の街を歩きながらクロは終始にこにこしていた。
「もう注文はしてあるんだ。だけど実際に見てもらわなくちゃ」
なんて言いながら、ずっと私の右手を優しく握ってくれている。
「イブは明日だけど、明日は崎村が何か言ってくるかもしれないし。それにイブはさ、やっぱり二人でそっと祝いたいんだ」
クロは吸血鬼なのにクリスマスを祝うなんて、少しおかしかった。
「何? 何かおかしい事言った?」
「ううん、何でも」
本当に何でも無い事だった。
クロが吸血鬼だろうと人間だろうと、はたまた殺人鬼だろうと。
私には何でも無い事なんだ。
だって私はクロが好き。
初めて会った時からずっと、この思いは急速に加速して私の心を満たしていく。
私が初めて心を許した他人。その彼が血の匂いを漂わせながら帰って来るのも、またそんな彼に「お帰り」と言って迎え入れられるのも……その全てが私の幸せなんだ。