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人間屑シリーズ

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 おぼつかない足取りの私が行く先は、保健室などではない。
 トイレ横の階段を上り、そのまま屋上へと向かう。
 屋上は立ち入り禁止になっていたが、だからといって入れないわけでは無かった。上へ上へと昇り続け、四階の階段を上り切った先に鉄製の扉が見える。錆びついた鉄製の扉に手をかけ、一気に押し開けると新鮮な風が私の顔を薙いだ。
 太陽の光が眼球を刺激して目の奥がズクンと痛む。そのまま目を細めながら、一歩一歩屋上へと踏み出す。
 辺りをざっと見まわしたが、屋上には誰もいなかった。それも当たり前の事だ。屋上の扉は錆びついてしまっていて、簡単に開く事を知っているものは少ない。まして、今は授業中なのだった。

 フェンスに近づき地上を見下ろす。授業中の学校はとても静かだ。
「……ふぅ」
 息を一つ吐くと、気持ちが少しだけ落ち着いた。
 どうしてここにいるんだろう……。私の居場所なんてどこにもない。家にも学校にも、どこにもない。心の中に虚無感を抱えながら、私はその場に横たわった。
 冷たいコンクリートの感覚に体が浄化されていくような気がして、そのまま目を閉じるとやがて睡魔が襲ってきた。
 今朝も早くから、狂気によって目覚めた。はっきりいって睡眠不足は否めなかった。
 そのまま睡魔に身を任せると、急速に意識は拡散していった。

          *

 ポツ、ポツ……と何かが頬を濡らす感触で目が覚めた。
 重い瞼を擦り空を見れば、そこは灰色に満ちていた。
「雨……」
 雨粒がポツリポツリと私を濡らし始めている。
 雨に打たれる気はなかったので、急いで起き上がり校内へと戻った。時計を見ると午後四時過ぎ――どうやら午後の授業の全てを欠席してしまったようだ。
 でも……そんな事は大した問題じゃない。


 一階まで下りて行き、下駄箱でローファーに履き替える。傘は持ってきていなかったが、今のうちなら家までさして濡れずに帰れると思う。
 そのまま校舎を出ようとすると、後ろから誰かに名前を呼びとめられた。
「?」
 声に振り返るとそこには、我が校で一番の美人のミカさんがいた。
「大丈夫だった? 保健室に行ったって聞いたけど、ずっと帰ってこないから心配してたんだよー」
 彼女は綺麗な笑顔を作りながら私にそう話しかける。
「あ、うん……大丈夫」
 対して私の地味な事。綺麗に笑う事も出来ずに、小さく俯くだけだった。
「そっか、一人でも帰れる?」
「うん……大丈夫」
 一番綺麗で一番優しい彼女の前で私は、目を合わす事すら出来ずに小声で返事をするだけだ。
 ミカさんはいつでも周囲に気を配り、誰にでも分け隔てなく接する。けれどそれが私には、ひどく気味が悪く映る。全く……あんな生き方を良くするわ、と内心ではせせら笑っていた。いつもいつも周りに気を使い、美しく笑う。私はそんな彼女が苦手だった。
「それじゃあ……」
「あ、うん。ばいばーい! 気を付けてねー」
 一刻も早く彼女の元から去りたくて適当に話を切りあげると、私は彼女に背を向け校庭へと足を踏み出した。

作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文