人間屑シリーズ
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先輩とは大学近くのカフェで待ち合わせた。
「懐かしいわね。こうして学生達の中にいると、あの頃を思い出すわ」
大学生の頃よりも少しだけ伸ばした茶色い髪を、さらさらと靡かせながら先輩は僅か遠い目をした。その切れ長の美しい瞳と、少しだけツンとした唇は、先輩の聡明さを見事に表している。昔と変わらずに綺麗なままの先輩は、やっぱり昔と変わらずにホワイトチョコレートモカを美味しそうに口に運ぶ。
「好きッスね、ソレ」
「好きよ」
そう言って唇に微笑を湛える。うわっ、今の表情すっごい色っぽいなー、やべぇーなー、俺やっぱり好きだなー。自分の感情に脳みそが追い付かないのか、俺の口は勝手な事を喋り出す。
「先輩、結婚は?」
「したわ」
はぁ……。なんて事聞いてるんだよ、俺は……。久しぶりに他人に、それもあの先輩に会って舞い上がりすぎじゃないか? そりゃ結婚してるに決まってるだろ。あの先輩だぞ? 自分で自分を痛めつけてどうする。というより、 もうすぐ死ぬ俺には関係の無い事じゃないか。
「別れたけど」
おっしゃーー! 有難う! 神様ーーーっ! 先輩から次に発せられたその答えに、俺は心でガッツポーズ。なんかもう反射的にガッツポーズ。いやいや、俺には関係ないよ? 関係ないけど何となく、やっぱ嬉しいじゃないか。
「ねぇ、明後日のイブなんだけど…暇?」
心でガッツポーズしてる間に、先輩から急転直下のこのお言葉! 一体この俺にそんな事を聞いてどうするんだよ。ていうか明後日がイブって事すら知らなかったよ。長らくヒキってて、曜日感覚なんかねぇよ。
「あ、やっぱ予定ある?」
返事に戸惑っていた俺を、どう思ったのか先輩は少しだけ残念そうな顔をする。いやいや! 違います、先輩!
「いやっ! もう暇も暇! 暇すぎて頭おかしくなる位ですよ!」
カンカンの笑顔でそう答えた。もう真夏の太陽かってくらいに、カンカンの笑顔。久しぶりに笑顔なんか作ったから、頬の筋肉が若干震えたくらいだ。
「私ね、ホテル取ってあるのよ。彼氏と過ごそうと思って半年前から予約してたんだけど。半年も持たなくって」
ホテル!?
「だから、良かったら一緒に過ごさない? 今からだとキャンセル料取られちゃうのよ」
「喜んで!」
一も二もなく脊髄反射的にそう叫んでいた。先輩はそんな俺を見ると、にっこりと微笑んで「じゃ、明後日ね」と言いながら、そっと髪をかき上げた。
その後も色々と話したはずだが、記憶には残っていない。俺は完全に舞い上がっていた。だって明後日は先輩と二人っきりのスペシャルオシャレイブなんだぜ!?
先輩と別れた後、俺は鼻歌でも歌いださん勢いで意気揚々とボロアパートに帰宅した。
残り五日