人間屑シリーズ
七日目
結局自宅に帰宅したのは、日付も変わった午後五時過ぎだった。三十時間ばかり家を空けたが、どうって事はないだろう。
宇宙人はきっとまた自分の面白おかしいように、家庭を破壊しているだけだ。
そんな風に思いながら玄関の扉を開けると、そこには妻がいた。
全身糞尿にまみれ、悪臭を放ちながら妻は玄関に立っていた。
「……あ……」
俺は何と言えばいいのか分からなかった。
妻は笑っていた。微笑んでいた。俺が返ってきたのを安堵するかのように。
オムツは吸いきれなくなった糞尿でまみれ、外へ漏れたそれらが妻の衣服を彩っていた。
……俺はなんという事をしたんだろうか。妻は1日中待っていたのだろうか、俺を、ここで。ずっとずっと突っ立っていたのだろうか。
答えが見つからないまま、俺は妻を抱きしめた。無意識に駆け出し、気付けば妻を腕に抱いていたのだった。
妻の糞尿に塗れながら俺は妻を強く強く抱きしめる。そしてそのまま崩れるように妻の前に跪いた。
「すまない……! すまない……!」
体よく逃げた俺を責める言葉すら持ち合わせない妻に、俺はただただ謝罪した。
……今日は七日目だ。
妻は一体どこへいくというのだ? こんなにも俺を待っていてくれたのに。
そして俺はやはりこの妻の事を愛しているのだ。かけがえ無く愛していた妻を、自分の手で壊したのだ。
「本当に……。俺は……」
俺は妻に謝罪する。謝罪の言葉すら思い浮かばないが、それでも謝罪する。
「俺は君の事をちゃんと愛していた。なのに、君を……裏切ったんだ。一度目は女を作り、そして今度は……君から逃げて……」
ああ、妻はどこへ行ってしまうのだろう。
宇宙人? 宇宙になんかいかないでくれ。こんな最低の男の帰りを、君以外に一体誰が待っていてくれるというのか。
「よう子……。俺には……君しかいない。君が宇宙人でも構わない……。介護の事ももっともっと勉強する。そうだ、ヘルパーだって探そう。世間体何かどうでもいいんだ。だから……」
妻の尿の跡のついた足が目に入る。罪の意識が肥大する。
「だから……ずっとここにいてくれ……! 宇宙になんか行かないでくれ……!」
俺は妻の目を見つめ、そう叫んだ。
届いて欲しい。この本当の気持ちを。その一心で。