人間屑シリーズ
六日目
「ぴーぽこーぴー」
妻は今日も遠くを見ている。
流星群に乗って星に帰るというなら、もうそれでも良いと思った。
妻が宇宙人になってからというもの、俺自身はろくに食事も出来ず、睡眠だって取れていない。
確かに浮気をした。そしてその相手は家まで押しかけ、妻の眼前で手首を切った。でもそんな事はよくある話じゃないか。それをこんな風になるなんて、余りにも妻の精神力が弱すぎるんじゃないか? 宇宙へ行くというなら行けばいい。もう知るものかっ。
そう心で叫ぶと俺は、厳重に戸締りをし妻を置いて外へ出た。
――たった数日ぶりの外気がひどく美味しく感じられた。
*
近所の公園へと足を運ぶと、そこには惣ちゃんと女子高生がいた。二人は何やら楽しげに話をしている。
オイオイ、大丈夫か? その取り合わせはどういう事だ? ……俺は惣ちゃんを逮捕なんかしたくないぞ。そう思いながら様子を伺うと、向こうの方もこっちに気がついたらしく声をかけてきた。
「おーい!」
にこにこと微笑んだまま堂々と俺を呼ぶという事は、俺が考えていたようなヨコシマな関係ではないのだろう。ホッと胸を撫で下ろしつつ、俺は二人に近づいた。
「よう子ちゃんはどう?」
すぐさま惣ちゃんが訪ねて来た。
「ああ、大分落ち着いたよ。ところで、そっちの子は?」
適当に嘘をついて会話をそらした。妻の事など考えたくはなかった。
「誰このオッサン?」
一緒にいる顔立ちの綺麗な女子高生も、惣ちゃんへと問いかけた。
「えっと、彼は僕の友達で刑事さんです」
惣ちゃんはいつも彼が俺以外の他人にそうするように、少女に敬語で俺を紹介した。
「……どういうつもり?」
俺を刑事と紹介した途端、少女の顔つきが変わった。
「いえ、そのっ……。やっぱりこういう事はきっちり相談した方がいいです」
「……ふざけないでよ!」
「彼は私の唯一の友人です。悪いようにはしません! 信じて下さい!」
何やらもめ始めた二人の間に挟まれながら、惣ちゃんの口から出た“唯一の友人”という言葉を頭の中で反芻する。唯一の友人……? 俺は本当にこの男の事を心の底から友人と思っているのだろうか? いいように利用しているだけなんじゃないのか? あの女のように。そして妻のように。
――だとしたら俺は……。俺はやはり罰をうけてしかるべきなんだろうか? 報いを受ける事が当然なんだろうか?