人間屑シリーズ
ふいに先輩の笑顔が瞼の裏を掠めた。
そうだな。先輩が笑ってくれるなら、ここに来た甲斐があったって事だよな。
俺は一人微笑んで、そして泣き崩れている男の横から立ちあがった。
「すみません。俺、急用を思い出したんで、もう行きますね」
「あ……こちらこそ、すみませんでした」
赤い目を擦りながら、男は頭を下げた。
「いえ、それじゃ」
「カオリには何かあったのでは? もしよろしければ伝言を……」
伝言……か。俺は少し考えてから微笑み、こう言った。
「それじゃあ……俺はいつまでも先輩の後輩で友人です、と伝えておいて下さい」
はい、と頷きながら男はもう一度頭を下げた。俺はくるりと踵を返し、警察署を後にした。
うん、そうだ。これでいい。先輩は今度こそ幸せになれるかもしれない。それはやっぱり俺にとって嬉しい事だ。なのに――
「うっぐっぐぅっ」
無意識に俺は号泣していた。溢れる涙が止まらない。
別に俺が俺こそが先輩を支えられるなんて大それた事を考えていたわけじゃない。
ただ俺は俺を嵌めた先輩を憎む気にはなれなかった。先輩の奥にあるものが透けて見えた気がしたからだ。だから俺は……やっぱり先輩の幸せを願っているだけなんだと……そう思う。
だから……これで良かったんだ。
――道端で泣きまくってると、一人の警官が近付いて来て職質をされた。俺は慌てて走って逃げた。何も逃げる必要などありはしないのに、反射的に逃げてしまった。
ちくしょう、俺の人生こんなんばっかだな!