劇詩
劇詩2
国会議事堂前に箱1と箱2が置いてある。白衣を着た声と、上半身裸の眼が通りかかる。日差しが日差しを浴びてどんどん増殖する。国会では星空の美しさについて議決がなされている。
声 だるまさんがころんだ、はないちもんめ、アルペン踊りで、あっち向いてほい!
眼 十五で姉やは嫁に行き、おさるのかご屋だホイサッサ! しまった、「さ」で終わっちゃった。
声 しりとりはお前の勝ちだな。しりとりで勝つ行為は不法行為に該当し、過失もある以上、お前は俺に賠償金を支払わなければならない。
箱1の蓋が開く。箱1の中に箱2が入る。箱1の中の箱2の中にさらに箱1が入る。箱2の統治する箱1の占領する箱2の容積が、箱1の面積との議論をやめない。
眼 あのね、今日学校でね、映画体操をやったんだ。そして校長にいじわるしたらタカシ君に誉められたよ。
声 殺虫剤! 映画体操はラジオ体操の祖先だって言うからな。消毒剤! タカシは相変わらず畏敬の念を横領し続けてるんだな。乾燥剤!
箱1は眼の通う学校で、箱2は声の勤める会社である。眼は箱1に入り、その狭苦しい闇の中で授業やクラスメートを妄想する。声は箱2に入り、その死んだ暗黒の中で仕事をしたつもりでいる。国会議事堂の内部は工場になっていて、法律と憎しみが流れ作業で生産されていく。一夜が明けて眼と声は再び箱から出てくる。声は黒衣を着ていて、眼は刺青を入れている。
声 デカルト! この度は本当にご愁傷さまでした。ニーチェ! あたくしも本当に言葉を失っておりました。フッサール!
眼 まあ、あいつも幸せだったと思います。海の輪の切断に慣れるように。草の移住の実力を縛るように。イギリスの洗濯の・・・
声 にょ、如来! 失礼。ぼ、ぼ、菩薩! あらあたくしどうしたのかしら。みょ、みょ、みょ、明王!
眼 お気になさらず。俺には何も見えないのです。時代に殺されたダイアモンドのように。手足と頭と富士山の平均から二歩下がったかのように。
箱1は眼の働く市場で、箱2は声の住む邸宅である。眼が箱1に入り声がその蓋を閉めて出られなくする。今度は、声が箱2に入り眼がその蓋を閉めて出られなくする。また一夜が明ける。箱1と箱2の内部は国会議事堂へと切り替わる。国会議事堂の内部は病院になっていて、人権と恋愛が治療されている。声も眼もスーツを着ている。
声 斉藤さんの病状についての政府見解はどうだったかね?
眼 僕の視力が1・5であることから考えると、確か招集通知手続不履行病だと思います。
声 国土交通省は最近、都市開発症候群に罹患していると思われる。政令を処方しておけ。
眼 僕の視力が0.01であることから考えると、それは三権分立という不治の病に妨げられるでしょう。
箱1が開いて眼はこの作品から脱出する。箱2も開いて声もこの作品から離脱する。読者の目の前にあるのは一個の眼。それが延々とこの作品を朗読している。