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劇詩

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劇詩1


東京都板橋区のマンション内にある地獄に、新しい入居者が来るという噂が回った。105号室をルームシェアしている鬼1と鬼2が一緒にDVDを観ている。『リトル・ミス・サンシャイン』。部屋の中には二人がこっそり盗んできた針の山の針で、デュシャンの絵画が再現されている。
鬼1 このバスの本質存在を事実存在と掛け合わせると、バスから流れ出る天国の存在を証明できる。あ、ごめん、君の心臓をまた刺しちゃった。君の血はいつも、日光の殺意が症状になったみたいな味がするよ。
鬼2 天国の存在証明によって天国の月給も証明される。予測によればその月給は地獄の十倍らしい。天国への転職の道が開かれる。僕の心臓は今、焦熱地獄、つまり203号室から燃え出ている太平洋で、みだらに畑作されているからいくらでも召し上がれ。それよりも僕こそ君の背骨をまたすりおろして静寂の風力を計るのに使ってごめん。
鬼1 僕たちは地獄労働組合員として、閻魔大王と数百度にわたって団体交渉したにもかかわらず、いまだに賃金の水準は戦後並みだ。経済の鳴き声、政治の読経、それも金がなくちゃあ届かない。ちょっと眼をえぐってもいいかい? 君の眼はいつも、雲の絶望を落札する目つきをしているよ。
鬼2 ああどうぞ。人間たちは鬼は残酷だというが、げほん、鬼の残酷さは人間の性欲と一緒だよ。僕は性欲というのが理解できん。ちょっと指を折らせてもらうよ。
砂女、105号室の呼び鈴を鳴らす。指先から砂が落ち、その砂が彼女の足の爪に吸収されてまた循環する。鬼1、ドアを開ける。
砂女 日々新聞の者なのですが、新聞はお取りでしょうか? あるいは水道水のにおいなど気になりませんか? あるいは昭和乳業の者なのですが話を聞いてもらえませんか? あるいはキリスト教に興味はありませんか? あるいは・・・
鬼1 全部ください。
砂女 いいえ、結構です。私が噂になっている新しい入居者です。隣の106号室に越してきました。
鬼2 そんなに噂にはなってないよ。思い上がるのもいい加減にしたまえ! 
砂女 いいえ、噂になっているはず。そして地獄では噂になることが名誉のはず。
鬼1 まあそんなに嫉妬することもない。確かに君は噂になっている。噂の密度を陰口の速度で割り、さらに噂の源の鬼の彩度をそこから引くと、天国への経路が導か・・・
砂女、砂となって鬼1を覆い尽くす。砂は血で濡れてゆき、さらに肉や骨も融かし、その融けた液体を吸い取る。湿った砂はまた集まり、砂女となるが、前よりも明らかに太っている。
鬼2 なんだ、お前か。今さら何しに来たんだ。もう俺たちは終わったはずだろう。お前との不倫がばれて、俺は天国を追い出されたんだ。今じゃ地獄稼業さ。
砂女(鬼1) なんだって? やっぱり君は天国の場所を知ってたんじゃないか。なぜ教えてくれなかったんだ。
鬼2 あ、君だったの?
砂女 いいえ、私よ。私は今電車を組み立てているの。電車の脳髄からあなたへの友情の底冷えを預かってきたわ。
砂女はまた砂に還り、砂は脈打ちそこから鬼1が再び現れてDVDの続きを観る。砂はもう動かない。
鬼2 おおよかった君か。いや、実はあの女はひどい女だったよ。ケチで乱暴で嫉妬深いと来たもんだ。別れてせいせいしたんだ。
鬼1(砂女) あなたの本心はやっぱりそうだったのね。
とたんに死んだはずの砂が動き出し、鬼2を覆い尽くす。鬼2を吸収して太った砂女が立ちあがる。
鬼1 まあとりあえず、「地獄へようこそ。」
砂女 それでは、引越しの作業の続きがありますのでこの辺で失礼します。

作品名:劇詩 作家名:Beamte