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火乃 龍弥
火乃 龍弥
novelistID. 15140
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君に言えなかったことがある

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【行かないで / 君と離れたくなかったこと】



眠っている上野の腕から逃れるようにベットから出た。
繋がったまま眠ったせいか、抜いた瞬間、昨晩上野の放ったモノが太股を伝う。
その冷たさにびくりと体を震わせ、俺はシャワーを浴びるために部屋を出た。
昨晩の上野は、どうも様子がおかしかった。
心ここに在らずというか、俺を通り越して別の奴を見ているような。
実際、俺の覚えている範囲、上野は行為中、一度も俺の名前を呼ばなかった。
いつもはしつこいくらい、あの色めいた声で呼んでくれるのに。
嫌だと言っても、そんな俺の反応を楽しんでか、わざと耳元で、掠れた声で囁く。

キィーと音を立てて、浴室の扉を開く。
明け方のひんやりとした空気が、その場所には詰まっていた。
俺の体と反対に出て行ったその空気を、同じように音の鳴る扉を閉めて遮った。
少し暑いくらいのお湯を頭からかかる。
足元から立つ蒸気と水の音に、なぜだかひどく安心した。

キィー。
背後から聞こえた音と、一瞬感じた外の空気。
俺が遮ったものが、またやって来た。

「わり、寝ちまった」

一糸纏わぬ姿は俺と同じだが、所々適度についた筋肉が、全くの別人なんだと認識させる。

「もう、終わった?」

そう言って、俺の後ろに手を伸ばす。
頭から浴びただけで、まだどこも洗っていない俺の体は、上野の意の通りの音を立てた。
ツプリと入っていく骨張った指。
イイ所を掠る度、俺の口からは熱い吐息が漏れる。
上野の手が、俺の前からシャワーを取り、その場所に近付ける。
指で押し広げられたその中に、熱いお湯が流れ込んでくる。
そして掻き混ぜるような指使いで、事後処理をしていく。
俺の中心は、既に熱を持ち始めていて、でも反対に頭の中は冷たくなっていく。

もし上野が他の奴を好きになったのなら。
その相手が女だったら、俺は引き下がるしかない。
上野が迫って来たこの関係も、自分から切る。
でも――。
万が一、それが男だったら?
上野が必ずしも女を選ぶとは限らない。
事実、この俺がいるのだから。
次、新しく好きになった奴が男でも、それは全く不思議ではないのだ。

「んぅ……はぁ、」

意に反して零れる甘い声に、自分の立場を思い知らされる。
どんなに心が冷めていても、上野のいいように慣らされたこの体は、どこまでも貪欲に上野を求めてしまう。
というか、俺は心のどこかで上野を一人占めにしたがっている。
俺から離れずにと、どこかで期待してしまう。

「……は、っ……上、野…」
「ん?なんだ?」

どこにも行くな。

それは言葉になることもなく、消えていった。



fin.…?