赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹
ぴちゃん、ぴちゃんと。
バスルームには水が滴っていて。その両端には、お父さんとお母さんの死体があって。その中央には。
兄がいた。
兄が。包丁を持って。
放心したように、立ち尽くしていた。
「――――×××」
兄は、私の名を呼んで。
そして、私に近づいてきた。
私は、動けずに。
動けずに、そこに、立っていて。
兄は。
兄は――――
そして、全てが闇に飲まれていった。
雨が降っている。
俺は一人で、学校からの道を、歩いている。傘を忘れてきたので、仕方なくずぶ濡れで。
ぴちゃん、ぴちゃんと。
雨の滴が道にはじけ、そのたびに音を立てる。
――――。
突然、水音が止んだ。頭上には傘があって。隣には、妹がいた。
お兄ちゃん、傘持ってかなくちゃ、駄目じゃない。
高すぎず低すぎず。その澄んだ声が、耳元で響く。
悪いな、×××。
何故か、妹の名前は聞こえなかった。
夢……なのだろうか。
俺は思う。
もしこれが夢だとしても、俺は今、幸せなんだろう、と。
作品名:赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹 作家名:tei