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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep1.病院と兄妹

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 明かりのついた廊下を、俺は歩く。歩きながら、さっき読んだ本の一節を思い出す。
 さっき。
 真っ暗だった病室に明かりが戻った時。その瞬間、俺の手元に開きっぱなしだった、あの本の最初のページが、目に飛び込んできた。
『世界に灯の戻る時、それは始まる』
 紛れもなく、紅也の字だった。
 どうやらそれは、本というよりも、紅也の、俺に対する書置きのようなものであるらしかった。世界、というのを俺にとってのものとして考えると、『灯の戻る時』とは、今をおいて他にない。しかし、『それ』というのは何だろう。……紅也のやつ、どうしてこう、謎掛けのようなことをしてくるのか。
 ともかく、今、何かが始まっていることだけは確かであり、見たところ俺の病室にはこれといって変わったところはなかった。とすると、他の病室のことを言っていると考えて良いだろう。
 あいつがこの出来事を予知していたこと自体は、別におかしいことではない。悪魔だし。そして、わざわざ他の人間に聞かれないように(としか考えられない)『本』という形で『それ』が起こる、と教えてきた……ということは。
 俺と『それ』とは、何らかの関わりがあるものと見て良いだろう。ま、もしかしたら紅也との契約のほうに関わってるのかもだけど。
 それなら――それならば。
 さっさと動いた方が、良いんだろう。
 そう思って、俺は病室を出たわけだ。アラタ君を独りにするのは少し可哀そうな気もしたが、仕方ない。
 トイレの前を通り過ぎ、俺は歩き続ける。まだ、何も見えてこない。
 そういえば、本の次のページから先には、何も書いていなかった……なんだろう、続きは悪魔の特殊なペンか何かで書かれているのだろうか。
 もう、俺の病室から最も離れた病室は、すぐそこまで見えてきた。今のところ、何の異常も見られないが……、この階ではないのか?
 俺は給湯室の前を通り過ぎ――……、
――え?
 そして、立ち止まった。
 給湯室だけ、真っ暗だった。いつもなら、消灯時間でさえも薄く灯が灯っているはずなのに。……なんだ、ろう?
 妙に気になって。
 俺は、給湯室を覗いた。中を確認して……。
 そして、急いでナースセンターまで走った。

 給湯室には、一人の看護師がいた。
 胸に、刃物が刺さっていて。
 勿論、血が流れていた。真っ赤な血が。
 そして、倒れていた。俺は彼女に駆け寄ろうとしたが、その拍子に何かに躓いた。
 見ると。
 その――、俺の足元に倒れていたのは、一人の少年だった。
 よくよく見てみると、少年もメッタ刺しにされていて。
 看護師の方は、その少年をかばうようにして絶命しているようだった。
 恐らくは。ここに現れた第三の人物が、彼女ら二人を殺したのだろう。看護師は、たまたま少年が殺されそうになっていたのをかばい、殺された……。の、か?
 もしかしたら、初めから二人でいたのかもしれない。でも、そんなことや何やかやは関係なくて。
 やっぱり、そこには二つの死体があるばかり。
 紅也の予想通り、『それ』は始まったのだった。