ちょ、またあいつかよ【自販機スペース】
私は物心ついたときから少しねじ曲がっていた。それを許容できるほど現代社会は甘くないが、またそれを許容できるほど私が強くなかった。ただ男子からはバカにされる、というより、変だけどかわいい、という評判の元、性的な目で見られていた。どころか、私を中には犯そうとした奴も複数人いる。
女子からの仕打ち?余りに野暮すぎるとしか思えないことを訊いてはいけない。彼女らは私を病原菌扱いする。どこの学校でも見慣れた風景だ。男より女のいじめの方がたちが悪い、なんていうのは当たり前だけれど、それだけに女に生まれたことがよけいいやになった。姦しいし。ウジ虫みたいだ、女心ってさ。
まあ、あいつはいじめられていると言うよりなんかなじめないんでしょうねえ。なんか気色悪いから近づきたくないのに近づいてくる。しかし確かにあいつはイケメンではある。だからどうしたのレベルのイケメンではない。正真正銘ジャニーズ系。なのに中身がさわやかではないってどういうことなの。
そして、自販機に飲み物を買いに行くと。
ちょ、またあいつかよ。
「もうイヤになっちゃった?悪いけど自殺にはつきあわないよ。まだまだやりたいゲームがあってさ」
「ふざけるな」
「女の子がそんな口調を使うんじゃありません。品格問われるよ」
「ざけんなてめえ」
「おっと」
私のドライバーを見事段ボールカッターで弾きとばすと、彼はそれをキャッチしたまま段ボールカッターを当ててくる。
「自分の生死がかかったら僕は容赦ないからね?いい加減にしなよ?なんなの君?同情でもしてほしいんですか。慰めてほしいんですか。悪いけど僕は自分のことで精一杯なんだよ!僕は君のいじめなんて関心が持てないんだよ!いい加減にしたらどうだ…僕を痛めつけるだけ痛めつけて僕だって少々我慢してきたけど限界だよっ・今から10秒数えるからその間に消えないと殺すよ」
「 」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、…0」
グサッと一突き。制服に滴る赤い血の雫がこぼれ落ちて夕日に映える。美しい。
「ドライバーが一本しかないとでも思ってるの」
「どういう意味」
「こういう意味」
わたしもフラストレーションが溜まっていたんだから。取り出したドライバーや鑢で彼をメッタメタにする。遠くから急に声が聞こえる。
「池谷さん!?」
「東郷くん!?」
二人が倒れた部屋にはなぜか別に二人がいる。
「なにしてんだ急に」
「古川くん」
「いくら東郷の奴がムカついてもさしたらだめだろ」
「先にやったの向こうだもの」
「というか、おまえ女子になんかされてたって初めて知ったんだけど」
「むこうの桐谷も東郷が男子にいじめられてたって初めて知ったみたいだね」
「…いじめっていうかねえ…だったらあいつのクラスをみてごらんよ。半分近く不登校だぜ」
「え?なにそれ」
「まあ、いわばおまえらみたいにやられて、その後学校こなくなっちゃって、いまやそっちが主流派っていう状況理解できる?」
「先生は気づかないの?不穏な空気に」
すると何故か桐谷が口を開く。
「先生があなたたちをいじめるよう命令しているのよ」
「…」
「桐谷さんのいうとおりさ」
「東郷」
「結局ひねくれたのはほしくないんだってはははは笑っちゃうよね」
「笑えないでしょ」
「笑えるよ。だって気づかないんだもん」
「なにが」
「僕が、どれだけ先生方の行動を見ているか、ということだよ…ビデオカメラくんが活躍してくれました」
次の日、学校に先生はいなかった。驚いていると、さらに驚愕は舞い込む。
桐谷と古川くんが死んでいる。
なのにみんな心配もしなければ空気のように扱っている。そんななか、なぜか一人自販機のそばで、血の付いたナイフを振り回しているのは彼?東郷?違う。東郷はそんな奴じゃない。
よくみればあれは別人だ。
なーんだ。
そして気づく。あれは、そしていろいろな場所で死んでいた理性とを殺傷しているのは、みんな東郷と同じクラス章を付けていること。
「驚いた?」
「…」
「まあ、これを鎮静化させないとさあ、まずくない?」
「どうするの」
「…こうするんだよ」
彼はまた段ボールカッターを取り出した。そして校舎内に駆け込む。
「ヒャッハー!一度やってみたかったんだよね!モラルを気にしてできなかったけどさ!ああなんて幸せなんだ僕は!」
みんなが発狂していく。そして静まり返って最後に、唯一私の前で動いていたのは東郷だった。
「さあ、池谷さん、君の番だよ」
「なにを」
「自分の生存を高らかに叫べ」
「…」
結局事態は救急車が大量に来て収まった。高校生だから彼は死刑を免れ得ぬ気もするだろうが、実際は発狂の結果、ということで、彼の精神的ダメージも含め裁判すら行われずに死刑にもならず病院に幽閉された。
私はカウンセラー先生に10年もつきあっていただいて、じっくり回復をしたが、それでもときどき発狂してしまいそうになる。
いや、もう既にまずいところまで来ているのだ。どうしたらいい、この謎の焦燥感を?私は苦しくなって「私は戻れないの?」とつぶやく。
作品名:ちょ、またあいつかよ【自販機スペース】 作家名:フレンドボーイ42