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製作に関する報告書

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私は初対面の人間に、しかもただ現状を報告しただけで気が狂ったように噛みつかれたことがありませんから、かなり動揺しました。だいたい彼らが聞くも聞かないも、サイバーフロントが権利を買ったわけで、そのサイバーフロントが買った権利をどう使おうが下請けに言う必要などはまったくないのです。そのあたりのこと、著作権のことを柴田氏も松本氏もまったく理解していませんでした。また、特に柴田氏は市川氏とそりが合わないらしく、市川氏の発言にいちいち突っかかるような素振りを見せたものです。たとえば、市川氏はメモオフのキャラである稲穂信を6作目でも出したいというような意見を持っていたようですが、その意見に対して柴田氏は、
  
『信はいらねーんだよ』
 
などと喚いて、自分の意見が通らないと机に突っ伏すなど、普通ではない動作を私の前で繰り返しておりましたが、こういう行動は、一般的な会議では見られない珍景だと私には感じられたものです。それとも、一流の企業、たとえば、三井や三菱の会議でも、社員というものは自分の意見が通らないときには机の上で転げまわってふてくされるというような態度をとるのか。多分そうではないと思うのです。ですからこそ私は彼らに知的障害、あるいは人格障害があったのではないかと疑っているのです。

いずれにせよ初対面の印象というものは非常に大事で、ですから、私は、この柴田氏と松本氏に対してはきわめてネガティブな印象を持ちました。つまり、
 
『メモオフという作品の癌は、この二人である』
 
と、私はそう認識したのです。彼らこそが作品の足かせ。ですが、私の認識は実は間違っていました。そうではなくて、作品にとっての癌は、柴田、松本両氏に加えてグラフィックチーフの相澤氏、さらには、キャラ担当の輿水氏(同じキャラ担当の松尾氏にはお会いできませんでしたので判断を留保します)、さらにはそれを御しきれない元FDJの市川氏。全ての人が癌であり、5pb.に移ってきたKIDの残党全員が極論をすれば生きる不良債権だったのです。
 
『これがフックになって……』
 
会議中、柴田氏は私の用意した資料を斜め読みしながら、気が狂ったように何度も『フック』という言葉を連発していました。どうも、彼は、伏線という意味で『フック』という言葉を使っていたようですが、私はそういう業界用語を使いませんし、また、そのような横文字を濫用する人間を軽蔑します。別に業界人ぶって偉そうに振舞ってくださらなくても結構。普通に話してくだされば言っていることは分かりまから。それとも、柴田氏には私がアメリカ人に見えたのですかね。
 
『ずいぶんと稚拙なことをする人であるな』
 
と私は内心、そのようなことを思っておりました。
 
 5
  
 そしてこの最初の会議の際に、ですが、後に大きなトラブルとなる『名前』の問題はすでに表面化しておりました。この『キャラの名前』という一点は、その後、私がメモオフ6の製作から離れる最大の原因となるものであり、きっかけでありました。あとでまた詳しく書くことになると思いますが、基本的なことを申し上げれば、
 
『私は自分が作ったキャラの名前に愛着を持っており、ですから、この一点を通したかった。それを、柴田氏、グラフィックのチーフである相澤氏、さらには輿水氏が断りもなく変更をした』
 
ということであります。もっとも、私は何が何でも変更はよろしくないというような偏狭な人間ではありません。その部分は発端。そうではなくてグラフィックのチーフである相澤こたろー氏、プロデューサーの柴田太郎氏、さらにはキャラ担当の輿水氏や、ディレクター松本氏の心根の悪さが私としては許せなかったと、そういうことでした。ですが、今はとりあえず話を進めることにします。
私は、この会合の時にこちらで作ったキャラの名前を提示しました。それはたとえば本町玄枝であったり、箱崎千砂子、さらにはメインのヒロインである明石ありすというものでした。私は、この名前を結構気に入っておりました。ただ、もう一度お断りしておきたいのは、私としても、
 
『何が何でもこれでなければダメだ』
 
というようなわがままは無かったのです。むしろ、そういう名前や小物関係の指示は輿水氏であるとかグラフィックのチーフである相澤氏が最初に提示をするべきことだったと今でも思っています。ですが、彼らからはそのようなお話は一切ありませんでした。ですから、私の側で製作したものをお渡しした。また、名前の変更その他をしたいのであれば、柴田太郎氏の側から早めになされるべきでした。私はすでに作業に入っているわけですから。ですが、そういうことはいっさいない。いずれにせよ柴田氏は私が作った名前は気に入らなかったようです。私は、その時、その理由がよく分からなかったのですが、今はなんとなく理解しています。この会合の時に、次のようなやり取りがありました。
 
私「キャラの名前についてはお渡ししたとおりです」
柴P「……」
私「キャラの姓は、東京中央区の地名に由来しています」
 
これも私のちょっとした遊びでした。私は、中央区に縁がありましたから、ですから、その地名を貰った。ただそれだけです。そして、そのときに見せた柴田氏の対応はこういうものでしたる
 
柴P「そんなのは分かっている!」
 
私は今では理解しているのですが、
 
『彼は分かっていなかった』
 
のです。彼は、中央区に暮らしたことはなかったはずですし、地図に詳しいということはなかったでしょうから。地元の人間だけが知っているような地名を彼が即座に、
 
『そんなのは百も承知』
 
と言いきれるわけがない。彼は、非常に対抗心の強い人物で、また嫉妬深い人物でもあったのでしょう。そして、ある種のルサンチマンを抱えた人物でした。はっきり言えば、作品を作れないからプロデューサーをやっている、そういう人間だったのだと思います。ですから彼は、ライターであるとか作家というものに対して必要以上に尊大な態度をとる。自分の弱さの裏返しでしょう。私以上にその後、彼が『名前』にこだわるのは、結局のところ、
 
『ライターの作った小さななぞなぞを見抜けなかった自分の浅薄さを悟られるのが悔しい。自分のほうが偉いということを分からせたい。自分に主導権があることを示したい』
 
ということだったのだと思います。ただ、私はそのような彼の心の動きを知りませんでしたし、また、知る必要もありませんでした。ですから、この話は、最初の会合が終わり、何週間かあとの二度目の会議でも柴田氏が何も言わなかったことで、
 
『終わったもの、決定したもの』
 
と認識していたのです。名前については、本当に柴田氏は何も語らず……というか、語りたくなかったのか。あるいは、
 
『外注がぐうの音も出ないような名前を俺が考えてやる』
 
とおかしな意気込みを持っていたのかもしれません。ただ、私にしてみれば、変更をしたいのであればそれはそれで構いませんから、早くしてくれと、申し上げたいのはその一点だけだったのです。チームの意思のほうを最後は尊重するというのが私の見解でしたし、それは今も変わりません。ですから私に言わせれば、
 
作品名:製作に関する報告書 作家名:黄支亮