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亡き王女のためのパヴァーヌ  完結

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「由紀に私が作ったコスチューム着て貰いたくて、ミシンが欲しかったんです。自分の力で作ったというこだわりがあって、会社のミシンは使いたくなかったんです。だから、ミシンも自分で買いたかった。月賦で買うつもりだったから、毎月、おじいさんに分割して払います。それでいいでしょう?」
 老人はやれやれという顔をする。
「お前が頑固だというのはよくわかってるから、好きにしてくれ。わしはあの川の横のブルーシートのテントにいるから、いつでも来てくれ。いなかったら、他のホームレスに「福井」って聞いてくれ。わしはあそこでは、福井でとおってるんだよ。じゃあ、これで帰るよ。鰻とメロンと、バナナとロールケーキで、ホームレス仲間と宴会するつもりなんだよ。じゃあ、今日は面倒かけたな。ありがとうな」
 老人は言うだけ言うと、さっさと廊下に出て引き戸を閉めた。
「ああ、寮長さんは、もうすぐ眼を醒ますから、何か言ってたら、適当にあしらってくれ」

 老人が去ったあと、しばらくして、戸の向こうで寮長の松野の声がした。
「篠原! お前……・。あれ? 何かお前に言うことあったのに……。ああ、篠原、風呂はどうする?」
 雪乃は戸を開けず部屋の中から返事する。
「すいません。今日は、友達のとこで入ってきました」
「そう。じゃぁ、風呂の湯、抜いとくね。お休み!」
「ありがとうございます。お休みなさい!」

 雪乃はふーう! 長い息を吐く。なにか、ややこしい事が一杯あった夜だった。もう、今はいちいち考えないでおこうと思った。ただ、由紀とこの世に二人だけの姉妹というのが心をくすぐった。
「他の夢魔の位置を特定するカーソルか。これだけは、いいなぁ……」
 由紀の家の方角を向く。赤い星が今夜は、マゼンタ色のガーベラのようにきらきらと瞬いている。雪乃はうれしそうに呟く。
「由紀、今夜はよっぽど楽しいこと考えてるみたい……」