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木野目 理兵衛
木野目 理兵衛
novelistID. 14673
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六体目のレプリカント

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 それを理解した途端、かっとなったわ。一気に頭に血が上った。生き物だ人間だ機械だ何だとか、そんな事は何もかもどうでもいい、ただの言葉遊びに過ぎなくなって、自分がやらなくちゃいけない事は、この裏切りを許しちゃ駄目だって事に思い至った私は、驚き慌てる二人へ……人形も驚くのよね、浅ましい反応だけど……二人へ一気に近付くと、近くに置いてあった花瓶で、がしゃんと、夫の頭にぶつけてやったの。あの人は、逃げる暇も無かったわ、避ける暇も。欠片が散ばって頭蓋骨はぐしゃぐしゃで水はまかれて脳汁と交じり合って……気色悪いったらありゃしない。嗚呼私はこんなものを愛していたのか、って思ったら、千年の恋も一瞬で覚めた……そう、自分が棄てられるって怯えもね。清々したわ。確かに。えぇ、法廷で言った通り。その瞬間は、ね、本当にすっきりした。
 でも、その後なの。重要なのは、この後。
 守護天使が動いたの。夫の下になっていた彼女がね、目を見開いて、こっちを向いて。私は咄嗟に後ろへ下がった。何されるか、解ったものじゃなかったから……うん、解ってなかった。意外かもしれないけど、私はその瞬間まで一度も、人形に対して何の感情も持っていなかったの。掃除機と一緒で、道具だって思ってたのね。これはロボットに過ぎない。意思なんてまやかしだ、ってさ。
 だから、彼女が夫の名を叫びながら号泣し始めたのには、心底肝を冷やしたわ。もう動かない肩を掴んで、必死にね、あの人の名を呼んだの。まるでそうすれば夫が生き返るんじゃないかって、そう信じているみたいに……そして止まったの。暫くしてから、ぴたっとね。それからがっくり力を失くすと、前のめりに倒れていったわ.……そう、死んだの。そんな表現は使いたくないけど、でもそうとしか言いようの無いものだったわ。電子頭脳の停止とかそんなちゃちなものじゃなく。
 その時の私? は呆気に取られて見ていたわ。理解出来なかったからじゃない。その時はもう冷静になっていて、守護天使が何をしていたのか、その身に何が起きたのか解った……そこに込められた意味が解ってしまったの。
 人形は、主人の理想として造られる.……たった一人の人間の為だけに。夫の守護天使は、彼の為に泣いていたの。そうする事がそれが存在している理由で、そうする事を望まれていたのだから……死んだのも、そう。主人が居なくなって、最早そうする意味が無くなってしまったから彼女は死んだ。死んでしまった……結構良くあるそうじゃないの、そういう事。名前は知らないけどね。
 要は、機能の一環、と言えばそうだったんだけど、でも私は身震いした……その行為で、人形が確かに彼を愛している様に見えたのだから。その中身が一体何であれ、深く深く愛している様に……少なくとも、私には出来ないわ。夫を手に掛けたのは私なんだから、そのせいで死ぬだなんて在り得ない。
 でもこの人形はそうした。在り得ない事で死んだ……えぇ、それはとても凄い事だと思う。さっきも言ったけど、ここまでされる様な存在なら、皆がみんな、ぞっこんになるのも解る、ってね……でも私は恐怖しか感じなかったの。それはつまり、私があの人にとって、完全に用無しだって事の証明だったから。うぅん、私だけじゃない。結局、個人にとって他人なんてどうだって良くて、守護天使が、人形が居れば、それで充分代価可能なんだ、と証明してしまっているから。
 だから気付いた時、私は人形を砕いていたわ。道具なんか使わない、この拳を何度も何発も叩きつけて、凄く手が痛くなっても止めず、人工皮膚が裂けて機械の中身が溢れても止めず、騒ぎを聞いた近所の人に無理矢理押さえつけられるまで、私は延々そうしてたの……気は、済まなかったわ、全然、ね。
 それは今でもだし、当時もだった。やった事は認めたわよ、ちゃんとね。それだけなら、まぁ夫にも責任があるとして、私の処分も少しは軽くなったかもしれない。私に同情してくれる人も、少なからず居たから、さ。
 でも私はそこから踏み入ったの。つまり、本当に裁かれるのは、あの守護天使を騙る人形なのであって、私も夫もその被害者に過ぎない。あれは恐ろしい存在であり、放って置いては百害あって一利なし、ってね。
 結果は知っての通りの非難囂々よ。そりゃ反対はあると想ってたけど、予想以上のものだったわ。私に同情してくれていた人も、弁護士も、全員が全員ね、掌を返した風に私を非難し始めた……私が知らない間に、世間はすっかり守護天使に対して肯定的になっていたのよ、どうしようも無い程に、ね。彼の者達は我々の伴侶であり、それを侮辱する事は許されず、受け居られない君は、異常であると言わざるを得ない、だとか何とか……ま、そういう事で、私はこの精神病棟にぶち込まれちゃった訳だ、酷い話だけど、ね。
 でも……うん、後悔は、してないかな。そりゃ悔しいし残念ではあるけど、あの人形を受け入れるのだけは勘弁ならないから。あれは居ちゃ駄目なもの。間違いない。一人一人の、個人としては、えぇ、きっと素晴らしいものでしょうよ。優れていると想うわ……でも、人間全体とかから見たら、危険過ぎる。今は大丈夫かもしれないけど、何時かきっと……しっぺ返しが来る筈。きっと、ね。
 と……そろそろ行くの? もうそんな時間? 年甲斐も無く長話にせいを出しちゃってごめんね……あぁ、気にしてないならいいんだけど。何故かな、貴方とだと良く口が動くわ。まるで夫と、昔の夫と話しているみたい……うん、そう、ちょっと不器用で、でも純粋で、本気しか知らなかったあの人に、ね。
 またお話出来る? ……嬉しい事、言ってくれるのね……えぇ、それじゃまた。
 そうそう、所で貴方、お名前は何て言うの?