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木野目 理兵衛
木野目 理兵衛
novelistID. 14673
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六体目のレプリカント

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私の様な犯罪者、しかも世間じゃ狂人だの精神病者だの言われている様な人間にお逢いしたいだなんて、一体どんな変わり者かと思ってたら、貴方の様なお若い方がいらっしゃるなんてね。それもなかなか男前で、頭が可笑しいってこんな所に叩き込まれるのも悪くは無いみたい……そんな滅相も無いだなんてお世辞、私には要らないわよ。今の言葉がどれに対して言ったのかは知らないけど、私が若く無いのも、夫をこの手で殺したのも、偉いお医者様に『感情移入能力の異常欠落者』だなんて診断されちゃったのも事実なんだから。
 まぁ私にして見れば、今の社会の方が異常だと思うんだけどね……えぇ、そう、あの人形の事。あれがどれだけ優れているか、なんて御託、嫌という程聞かされて来たわよ、私の友人やら親族やらにね。今更聞きたくも無いわ耳が腐っちゃう。確かに良く出来ているのは認めるけど、でもあれは、あれの正体は……うぅん、後にするわ、そこが一番重要な所なんだから。美味しい所は最後に、よ。
 さて、と。それじゃまずは、夫についてでも話しましょうか。
 私の夫は真面目が人間の皮を被った様な人だったわ。規則とか法律とか良識とかが大好きな人。若い頃からずっとそう。私とあの人が最初に出会ったから、かれこれ二十年位になるかしら。同じ大学のゼミでね、遊び呆けてた私は、彼に良くノートを写させて貰ってたの。それが縁で付き合う様になった……その頃は、まさか結婚するだなんて思っても居なかったけどね。ただの、ちょっとした遊びのつもり。彼の前にも、何人も付き合って来たわ、別に珍しくも無いだろうけど。
 でも、あの人ったら、そういう事にも大真面目なのね。一生懸命アプローチするのはいいんだけど全部空回ってて、しかもそれに気付いてないの。あんな性格だったから、女性とまともに接した事も無かったの。で、付き合って間も無い頃は、それが面白くて、私も調子に乗って、彼を引っ張り回した。我ながら結構酷かったと思うけど、でも何時頃からかしらね? あの人の一途さに、私の方が打たれちゃった。嗚呼この人は本気で私が好きなんだ、ってね。こっちは遊びだって言うのに、でも、今思うと、実際の所は良く解らない。あの人は頑張ってたけど、それはどちらかと言って、頑張る事しか知らなかったから。だからもしかしたら、ただ加減出来なかっただけで、気持ちの上じゃ、そんなでも無かったかもしれない……実際はやっぱり本気だったんだけど、ちょっと疑ってた訳。
 ただあの人がどんな想いだったかはともあれ、私の気持ちは本物になっていた。勿論打算とかも色々あったわ、この人が働いてくれば私は専業主婦でやって行けるんじゃない? とか、でも、それでも、好きになった気持ちに変わりは無かった……こんな事になってから考えると、ちょっと皮肉だけどね。
 で、それから私達は、卒業してから直ぐに結婚したの……言い出しっぺは、私だったわ。付き合うって事は、そういう事を前提としているもんじゃない、って。彼、そこまで考えて無かったのか、凄い動揺してたわねぇ、良く思い出せるわ。本当、子供みたいに慌てふためいちゃって、可愛いったらありゃしなかった。
 でもそこは真面目君、数日後に改めてプロポーズして来たの。コテコテのシチュエーションで、こっちが恥ずかしくなる様な……言わないわよ、そんな貴方、小母さんを辱しめて愉し……嗚呼、やっぱり今の世の中は、何処か何か可笑しくなってるのね熟女趣味だなんて……言ってて自分で哀しくなったから続けるわね。
 私達の結婚生活は、順風満帆だった、と言ってもいいわ。少なくとも最初の内はね。精々結婚する間際に、両親と少し揉めた位。でもそれも、彼がまた不器用なりにどうにかしてくれたわ。それで私はますます、嗚呼、この人と結婚する事になって良かったとか何とか想ったものよ……なかなか純情よね、本当。
 でも、そんな生活に陰りが見え始めたのは夫婦としての問題が浮かび上がったから……要するに、うん、そう、子供が産まれなかったの。
 私も夫も凄く悩んだわ。何が原因だったか、解らなかったものだから余計にね。不妊症の治療も揃って受けて見たけど、でもやっぱり効果は無かった。特に気にしてたのは、やっぱりあの人の方だった。自分に原因があるんじゃないか、って凄く悩んでて、見てられなかったわ……私? 多分、貴方の想像通り。気にしてない訳じゃないけど、彼程じゃなかったのは確かよ。
 そうやって何年も経つ間、私達夫婦はそれでも仲良くやっていった……少なくとも表面上は、ね。でも何だろう、あの人の気持ちから熱さが無くなって行くのを感じたの。勿論、もう学生じゃないんだし三十路も越えた訳だから、あんまり暑苦しくて落ち着きが無いのも弱りものだけど、でも、そういう事じゃなくて。多分、解って来たんだと思う……何がって、手の抜き方をよ。今まで何でもかんでも全力投球だったのが、どうやったら上手く休めるか解った。そんな感じ。この頃になると、子供に対する意識ってのも逆転していて、私の方が妊娠しない事を気にしていたわ。あの人は、子供なんて出来なくてもいいって言ってくれてたけど、でも、私はそれが何か無性に怖くて、むきになって返したものよ。いいえ、そんな事は無い、大丈夫、きっと出来る、ってね。
 多分、予感していたんだと思う。もしこのまま赤ちゃんが出来なかったら……それってつまり、生き物としては欠陥品って事じゃない? それは違う出産能力の有無で価値は計らないって言う人も居るんだろうけど、でも、それは人間としての意味であって、生き物としてはやっぱり何処か可笑しいんだと思う……簡単に言えば、うん、そう、あの人の浮気が怖かった訳。だって、セックスして命が産まれなかったとしたら、そんなの自慰と何が違うって言うの? ヤって気持ち良いからするなら、私じゃなくたっていい。ましてや、あの人の気持ちが離れ始めてたから。体も駄目で心も駄目になっていったら、本当に、私が居る意味、無いじゃない。何が理由か見当も付かないけど、生き物としても人間としても欠陥だなんて……っ、ごめん、少し待って……大丈夫。大丈夫だけど、まだ吹っ切れてないみたい.……うん、ありがと。優しいのね貴方。こんな始めて出会った人に。昔だったらころっと惚れてたわよ……ふふ、冗談よ、冗談、そんな焦らないの。
 えぇ、うん、いいわ。落ち着いた、話の続きをしましょう。
 それから暫くはとりあえず何事も無く、というのはつまり私は妊娠する事も無く過ぎていって、そうして五年前、とうとうあれが販売された。私なんかより多分貴方の方がよっぽど詳しいから言うまでも無いでしょうけどね、あの人形よ。何と言ったかしら正式名称は……嗚呼そうそう汎用人型伴侶機械『守護天使』ね、長ったらしいにも程があると思うわ.……うん、でもやっぱり貴方の方が知ってたじゃないの……持ってはいない? 嘘付きね。今のご時世であれを持っていないのは、私の様な生き遅れ位よ。貴方は、そうは見えないわ。意気というか意思を感じるもの。昔の夫とちょっと似てる……いえ、大分……まぁ、本当に持っていないならいいわ、お値段は結構なものだし、あの人形。
 でも、それだけの性能はあった……とは思うわ、悔しいけど、ね。