四神五獣伝一話 2/2
そして、俺達はリナ従姉さんの車に乗ると、神楽荘のある方へ帰っていった。
「それにしてもあの和泉って娘、お嬢様らしい気品と上品な佇まいをしていたけど、随分親しみやすかったな。」
今日出会った美少女について感想を漏らした。
「へぇ、日本人はお嬢様というと、漫画に出てくるような高飛車なキャラをイメージしたりするみたいだけど、君はそんなイメージはないのかな?」
俺の感想を聞いたかがりが、ニヤリッとニヒルな笑みを浮かべて聞いてきた。
「まともな日本人でもそういう風にイメージするヤツはごく一部だよ。まぁ 、そのイメージに金髪ドリルで交通にはベンツを使うならガチだけどな。でも同じお嬢様である観音さんも大道寺さんも、そんなキャラとは程遠いよな。」
「確かに、私達がたまに出席する社交パーティーには、君の言ったようなセレブも実際いる。自分達の身分を鼻にかけ庶民を見下すような嫌な奴らだ。私も和泉も、そんな奴らにようにだけははなりなくないから自分の生まれを誇りにしながらも、庶民にも別け隔てなく接しているんだ。」
そんなことを言うかがりの瞳には、赤眼がさらに赤く燃え上がっているように見えた。かがりも和泉も、彼女達なりの信念があるのだろう。
「やっぱり、見た目通り二人は優しいんだな。俺みたいな、ごくありふれた一般人にも普通に接してくれてるんだからな。」
「な、私も和泉も当たり前のことをしているだけだ!」
俺の「優しい」と言葉を聞いて、かがりの顔が赤くなった。照れてるところが、本当にかわいいな。
「あれ、そういえば君もヨーロッパの名家生まれなんだろ。ショッピングモールに行く時、言っていた神楽町より田舎な所にいたって…」
「あぁ、あの時『ヨーロッパの』って言うのを忘れていたな。私の実家は、森や川に囲まれた屋敷なんだが交通の便が悪くてな、だから電車が一時間に二、三本しか走らないホームを利用するより、馬車を使って街まで出掛けた方が、早かったりするんだ。」
更に照れるように笑うかがり。
俺のイメージするお嬢様は、高飛車金髪ドリルの他にもう一つある。それは、自然囲まれた城に住んでいて、交通は馬車を使う、まるでお姫様のようなキャラだ。
そのイメージと、かがりの言ったことが、殆ど一致するのは気のせいかな。さっき彼女が言っていた、「自分の生まれを誇りにしながら」というのは、このことかもしれない。
そんな他愛も無い?俺とかがりのやり取りを余所に、リナ従姉さんが呟いたのは、知らないことであった。
「『ごくありふれた一般人』ねぇ。第三者から見れば、考古学者兼遺跡発掘屋を両親に持つ君も十分普通じゃないと思うけどね。それに君には…」
ショッピングモールから離れていく一つの車。普段は、ハイヤーカーを愛用しているのだが、自分の身分の隠すため、今のような普通車を運転している。
「お父様やお母様の仕事で、日本には何度も来ているけど、こんな自然が多い田舎町に来たのは初めてですわ。」
今は、行楽シーズンということもあり人が賑わっているが、人集りから離れれば山と海に囲まれた美しい町並みとしても有名な神楽町を訪れたツインテールの美少女は、まるで子供のようにウキウキしていた。
「フフッ、いつも東京の高層ビルのような所ばかりでしたものね。私も、お嬢様の専属メイドになってからこんな静かな場所に来たのは数年ぶりです。」
そんな会話をしている二人は、主従関係というよりは仲の良い姉妹にすらみえる。
「それにしてもあのショッピングモールの件、この神楽町がどんな所なのか見て回っていたのに、ポスターに貼ってあった可愛い洋服につられたせいで、とんだトラブルに合いましたわね。」
よっぽど屈辱だったのか、この田舎町では大規模なショッピングモールで迷子になってしまったことを、思い出しただけでお嬢様の釣り目がより釣り上がり、声も低くなり、不機嫌そうな態度になった。それだけ、彼女には強い自尊心をいだいているのである。
「でも洋服を見ていたお嬢様は、とてもはしゃいでいましたね。子供みたいに可愛く。」
和泉の態度の変化を感じたのか、スイは主人を優しくフォローした。
「子供みたいとは失礼ね。でもスイ、あなたも色々人を引きつけていましたわよ。」
人で賑わっていた中で、ただでさえ目立った二人だがスイのメイド服でより一層人目を引きつけていた。
「うぅ、申し訳御座いませんお嬢様。やはり私も私服を着るべきでしたのに、これも仕事だと思ったもので…」
いつもおっとりしているメイドだが、主人に痛いところを突かれて、今度は自身が声が低くなった。
「あ、いえ、迷子になったわたくしにも、負い目があったわけだし。別に終わったことですもの。そんなに気にしないでスイ。」
身分を隠すと言っている割には、メイド服と屋敷以外ではあからさまに目立つ格好をしたスイに、今度は主人である和泉が従者を優しくなだめた。
「それはそうとスイ。今日会ったあの男子をあなたはどう思う。」
お嬢様は話題を切り替えるため、今日迷子になった自分に優しくしてくれた少年のことをメイドに尋ねた。
「あの茶髪の少年ですか。今時珍しい、なかなか面倒見よい日本男子だと思いましたよ。流石、旦那様が生まれ育った国ですね。」
「そういうことを、聞いたんじゃありませんのよ!」
「と、言いますと?」
「どうも、あの子からわたくしやかがりと同じ力を感じましたの。けれど、あの少年は自分自身その力に気がついていなかったみたいですの。」
「まさか!」
「そのまさかですわ。お父様とお母様が、急にわたくしをここに来るよう言い出したのも、そのためではないかしら。」
お嬢様の発言に、メイドは驚きのあまり口を閉じ、今後のことを考え始めた。
「でしたら、これからの私達のお泊りする場所は決まりましたね。早速かがり様に連絡をしてみてはいかがでしょう。」
「もちろん、今連絡するところでしたわ。ふふ、これから楽しくなってきましたね。腕がなりますわ。」
金髪のお嬢様は、これから起ころうとすることにどこか嬉しそうな表情を浮かべながら、幼馴染みである銀髪のお嬢様に携帯へ電話を入れた。
その表情には迷子になっていた弱々しい彼女ではなく、余裕で自信満々な自尊心の高い本来の彼女の姿であった。
リナ従姉さんの車が、神楽荘に着いた時にはもう六時を過ぎていた。しかし、時期が夏季だったので六時を過ぎても、周りはまだ夕日の明かりが残っていた。
「それじゃ、私は車を置いてくるから。鍵はさっき渡したヤツ一つしかないから無くさないでよ。」
「分かった気をつけるよ。リナ従姉さん、今日は迎えに来てくれただけじゃなく、ショッピングモールにまで連れってくれてありがとう。」
俺がお礼の一言を言うと、リナ従姉さんはニコッと子供らしい笑顔を見せながら、自分の車を駐車場に止めに行った。
「私の部屋は二階の奥の方だから、分からないことがあったら、遠慮しないで聞きに来ていいよ。」
かがりも自分の部屋に戻ろうとしたが、俺は彼女を呼び止め彼女にもお礼の一言を言った。
「大道寺さん。今日は、ありがとう。色々あったけど、おかげでこの町の変化を知ることができたよ。」
「それにしてもあの和泉って娘、お嬢様らしい気品と上品な佇まいをしていたけど、随分親しみやすかったな。」
今日出会った美少女について感想を漏らした。
「へぇ、日本人はお嬢様というと、漫画に出てくるような高飛車なキャラをイメージしたりするみたいだけど、君はそんなイメージはないのかな?」
俺の感想を聞いたかがりが、ニヤリッとニヒルな笑みを浮かべて聞いてきた。
「まともな日本人でもそういう風にイメージするヤツはごく一部だよ。まぁ 、そのイメージに金髪ドリルで交通にはベンツを使うならガチだけどな。でも同じお嬢様である観音さんも大道寺さんも、そんなキャラとは程遠いよな。」
「確かに、私達がたまに出席する社交パーティーには、君の言ったようなセレブも実際いる。自分達の身分を鼻にかけ庶民を見下すような嫌な奴らだ。私も和泉も、そんな奴らにようにだけははなりなくないから自分の生まれを誇りにしながらも、庶民にも別け隔てなく接しているんだ。」
そんなことを言うかがりの瞳には、赤眼がさらに赤く燃え上がっているように見えた。かがりも和泉も、彼女達なりの信念があるのだろう。
「やっぱり、見た目通り二人は優しいんだな。俺みたいな、ごくありふれた一般人にも普通に接してくれてるんだからな。」
「な、私も和泉も当たり前のことをしているだけだ!」
俺の「優しい」と言葉を聞いて、かがりの顔が赤くなった。照れてるところが、本当にかわいいな。
「あれ、そういえば君もヨーロッパの名家生まれなんだろ。ショッピングモールに行く時、言っていた神楽町より田舎な所にいたって…」
「あぁ、あの時『ヨーロッパの』って言うのを忘れていたな。私の実家は、森や川に囲まれた屋敷なんだが交通の便が悪くてな、だから電車が一時間に二、三本しか走らないホームを利用するより、馬車を使って街まで出掛けた方が、早かったりするんだ。」
更に照れるように笑うかがり。
俺のイメージするお嬢様は、高飛車金髪ドリルの他にもう一つある。それは、自然囲まれた城に住んでいて、交通は馬車を使う、まるでお姫様のようなキャラだ。
そのイメージと、かがりの言ったことが、殆ど一致するのは気のせいかな。さっき彼女が言っていた、「自分の生まれを誇りにしながら」というのは、このことかもしれない。
そんな他愛も無い?俺とかがりのやり取りを余所に、リナ従姉さんが呟いたのは、知らないことであった。
「『ごくありふれた一般人』ねぇ。第三者から見れば、考古学者兼遺跡発掘屋を両親に持つ君も十分普通じゃないと思うけどね。それに君には…」
ショッピングモールから離れていく一つの車。普段は、ハイヤーカーを愛用しているのだが、自分の身分の隠すため、今のような普通車を運転している。
「お父様やお母様の仕事で、日本には何度も来ているけど、こんな自然が多い田舎町に来たのは初めてですわ。」
今は、行楽シーズンということもあり人が賑わっているが、人集りから離れれば山と海に囲まれた美しい町並みとしても有名な神楽町を訪れたツインテールの美少女は、まるで子供のようにウキウキしていた。
「フフッ、いつも東京の高層ビルのような所ばかりでしたものね。私も、お嬢様の専属メイドになってからこんな静かな場所に来たのは数年ぶりです。」
そんな会話をしている二人は、主従関係というよりは仲の良い姉妹にすらみえる。
「それにしてもあのショッピングモールの件、この神楽町がどんな所なのか見て回っていたのに、ポスターに貼ってあった可愛い洋服につられたせいで、とんだトラブルに合いましたわね。」
よっぽど屈辱だったのか、この田舎町では大規模なショッピングモールで迷子になってしまったことを、思い出しただけでお嬢様の釣り目がより釣り上がり、声も低くなり、不機嫌そうな態度になった。それだけ、彼女には強い自尊心をいだいているのである。
「でも洋服を見ていたお嬢様は、とてもはしゃいでいましたね。子供みたいに可愛く。」
和泉の態度の変化を感じたのか、スイは主人を優しくフォローした。
「子供みたいとは失礼ね。でもスイ、あなたも色々人を引きつけていましたわよ。」
人で賑わっていた中で、ただでさえ目立った二人だがスイのメイド服でより一層人目を引きつけていた。
「うぅ、申し訳御座いませんお嬢様。やはり私も私服を着るべきでしたのに、これも仕事だと思ったもので…」
いつもおっとりしているメイドだが、主人に痛いところを突かれて、今度は自身が声が低くなった。
「あ、いえ、迷子になったわたくしにも、負い目があったわけだし。別に終わったことですもの。そんなに気にしないでスイ。」
身分を隠すと言っている割には、メイド服と屋敷以外ではあからさまに目立つ格好をしたスイに、今度は主人である和泉が従者を優しくなだめた。
「それはそうとスイ。今日会ったあの男子をあなたはどう思う。」
お嬢様は話題を切り替えるため、今日迷子になった自分に優しくしてくれた少年のことをメイドに尋ねた。
「あの茶髪の少年ですか。今時珍しい、なかなか面倒見よい日本男子だと思いましたよ。流石、旦那様が生まれ育った国ですね。」
「そういうことを、聞いたんじゃありませんのよ!」
「と、言いますと?」
「どうも、あの子からわたくしやかがりと同じ力を感じましたの。けれど、あの少年は自分自身その力に気がついていなかったみたいですの。」
「まさか!」
「そのまさかですわ。お父様とお母様が、急にわたくしをここに来るよう言い出したのも、そのためではないかしら。」
お嬢様の発言に、メイドは驚きのあまり口を閉じ、今後のことを考え始めた。
「でしたら、これからの私達のお泊りする場所は決まりましたね。早速かがり様に連絡をしてみてはいかがでしょう。」
「もちろん、今連絡するところでしたわ。ふふ、これから楽しくなってきましたね。腕がなりますわ。」
金髪のお嬢様は、これから起ころうとすることにどこか嬉しそうな表情を浮かべながら、幼馴染みである銀髪のお嬢様に携帯へ電話を入れた。
その表情には迷子になっていた弱々しい彼女ではなく、余裕で自信満々な自尊心の高い本来の彼女の姿であった。
リナ従姉さんの車が、神楽荘に着いた時にはもう六時を過ぎていた。しかし、時期が夏季だったので六時を過ぎても、周りはまだ夕日の明かりが残っていた。
「それじゃ、私は車を置いてくるから。鍵はさっき渡したヤツ一つしかないから無くさないでよ。」
「分かった気をつけるよ。リナ従姉さん、今日は迎えに来てくれただけじゃなく、ショッピングモールにまで連れってくれてありがとう。」
俺がお礼の一言を言うと、リナ従姉さんはニコッと子供らしい笑顔を見せながら、自分の車を駐車場に止めに行った。
「私の部屋は二階の奥の方だから、分からないことがあったら、遠慮しないで聞きに来ていいよ。」
かがりも自分の部屋に戻ろうとしたが、俺は彼女を呼び止め彼女にもお礼の一言を言った。
「大道寺さん。今日は、ありがとう。色々あったけど、おかげでこの町の変化を知ることができたよ。」
作品名:四神五獣伝一話 2/2 作家名:トシベー