四神五獣伝一話 1/2
俺は、目の前の光景に目を疑った。
おぞましい数の魔物と呼ばれる「それ」らは、意思が感じられない視線をこちらに向けてきた。見た目からは、全く凶悪性を感じないが、やつらから放つ殺気はこいつらが常識の範囲内の生き物でないこと再確認するには充分だった。
時間は十時を過ぎようとしていた。いつの間にか周りには、明かりが灯っている民家は一軒も見当たらなかった。田舎町とはいえ、まだ正午にもなっていないのに、完全に消灯してしまうのはどう考えても不自然だった。まるで、自分が見知らぬ空間へ迷い込んだような感覚だ。
静寂している周りとは裏腹に、俺と対峙している怪物達との間には、一触即発の「魔力」が渦巻いていた。
しかし、もっと驚くことにその魔物の群れに果敢にも飛び込んでいく影があった。
俺と同じ年齢とおぼしき少女が鋭い口調で俺に向かって叫ぶ。
「何ぼさっとしていますのライヤさん!」
その後に、先ほどと比べやややわらかな口調の銀髪の少女も叫んだ。
「あるじ、早く!」
二つの影、いや二人の少女は俺に声を掛けてきて、俺も戦うよう促した。
「戦うっていったって、いったいどうすれば…」
俺は、状況が飲み込めず狼狽していた。そんな俺に励を飛ばすように銀髪の少女が再び叫んだ。
「あるじ!そのアクセサリーを握って強く念じればいい!」
「これを…?」
俺は、慌ただしく今日身につけたばかりのネックレスに付いている純白のブローチを握りしめた。そして、言われるがまま彼女達の言うとおりに念じたが…
ブローチの中に紫に輝く宝石が力強く光りだし、ふと、頭に知らないはずの言葉が自然と浮かんできた。
「古の聖獣よ、我に従い力を与えよ。雷鳴を轟かす稲妻の聖獣!」
時は遡り
「ふぅ、やっと着いたか。十年ぶりか、懐かしいなぁ。」
そう呟きながら、懐かしい香りがする駅の改札口を通った。
俺は、芯央ライヤ。どこにでもいるごく普通の十六歳の高校一年生だ。
昔、この神楽町で生まれ育ったが、考古学者兼遺跡発掘屋を営んでいる両親の仕事の都合で、俺が六歳の時、ここを離れ都会の方に引っ越した。
しかし、突然親父が調査している海外の中東付近にある遺跡から、今までの常識を覆すような大発見をしたらしく、長期間海外に赴かなければいけなくなったということで、一人となった俺を夏休みの間だけ故郷であるこの神楽町に帰したというわけだ。
さっきも言ったけど、俺にとっては十年ぶりの里帰りとなるわけだ。
「おかしいな。もう来ているはずなのに…」
俺が、辺りをキョロキョロ見渡していると…
「おーいライヤ。ここよ。」
軽自動車の運転席のドアの前に立ったまま、俺を呼びながら手を振っている二十歳前後くらいの女性がいた。均一がとれたスタイルが、彼女を魅力的な大人の女性であることを思わせていた。それでいて、顔立ちは年の割にはまだ童顔っぽく、俺を見つけて嬉しそうに笑う顔はどこか少女のようなあどけない印象を与えていた。一つに纏めた栗色の髪からは、今にも女の人らしい甘い香りが漂ってきそうだった。
俺は、その女性がすぐに誰だか分かった。
「リナ従姉さん。久しぶり。」
俺は久しぶりの再開を交えた挨拶をかわしながら、早歩きで彼女の車に向かった。
「久しぶりね。しばらく見ないうちに、随分男らしくなったんじゃないかしら?」
彼女も久しぶりの再開に、更に子供っぽい笑顔を見せてくれた。
紹介が遅れたが、この人は七五三掛リナ。俺の遠縁の親戚に当たり、俺にとっては小さい頃よく面倒をみてくれた姉のような存在だ。大学生であるが、今は夏休み期間中であるので、今日俺が都会から神楽町に帰ると親父から聞いたので、この駅前まで迎えに来てもらったのだ。
「ここで立ち話もなんだから、とりあえず車に乗りなよ。買い物もしなきゃならないことだし。」
リナ従姉さんは、自分の車に乗れと言うように少し切れ目のある瞳をウインクしながら合図した。そして合図された通りに俺が車に乗ると、車のエンジンを掛け、ゆっくりと駅を後にした。
駅を出発してしばらくの間、リナ従姉さんと他愛もない会話をした。都会の学校はどんな感じなのか、両親の遺跡発掘でどれほどの発見をしたのかなど。
「さすが、考古学会からでも一目置かれているだけあるね、君の両親は。今までの業績もさることながら、今回の大発見。」
両親が発掘している遺跡の大発見の件は、親父から既にリナ従姉さんの耳には届いてはいたが、改めてその話を聞くと、まるで始めて美味しいものを口にした子供のような好奇心剥き出しの顔をまんべんなく俺に向けた。
確かに歴史の研究家にとって、大発見は注目を浴びることになり、時として名誉を手に入れられるほどでもあるようだ。だから今回の件も考古学会からは、正に歓喜の声が湧き上がるものだったらしい。
しかし、俺もこの件を聞かされてはいるが、実は俺も両親も素直に喜べなかった。というのも、その発見にはいささか疑問もあったからだ。
「でも、中東付近にある遺跡で特に有名なものは、シリアのパルミラ、ヨルダンのペトラ、イランのペルセポリスで、この三つは中東三大遺跡と言って通称3Pと言われているんだ。そして…」
「おお、さすが両親が発掘屋だけあって君もその血筋を引いているね。」
これから重要なことを言おうと思ったのに、俺の話を途中で邪魔するようにリナ従姉さんが、感心した声で言った。
「人の話は最後まで聞いてくれないか?」
俺は、溜め息をつくように呟いた。
「ハッハッハッ。そんな落ち込むなって。で、その3Pがどうしたの?」
俺の悪態を気にしない、というより、まるっきり無視しているかように、俺に話の続きを促した。その、彼女らしいあけすけさは、逆にこっちが感心してしまう。
「自分で話を切っといてよく言うよ。」
再び且つさっきよりも呆れ気味に深い溜息を吐いたが、これ以上ツッコむと話がますます脱線していまうのでツッコむのはよそう。俺は、中東の遺跡についての話に戻した。
「中東の遺跡は、さっき話した3Pはもちろん、ほとんどが砂漠地帯に建設されているんだ。そんな広い荒野に、何十本も林立している石柱や宮殿跡が散在しているけど、そのどれもが石造りで出来ている。」
リナ従姉さんは、俺の説明に今度は割り込むことなく、「なるほど」と頷きながら昔話を聞く子供みたいに聞いてくれている。
「だけど、今回両親が発掘した遺跡には、祭壇らしき所に水晶が発見されたんだ。俺も写真だけで実物を見てないから、詳しくは分からないけど、その水晶宝石のようにキラキラ輝いてて、大きさも人間大くらいあるらしいんだ。中東の遺跡にだぞ。信じられるか?」
さすがにリナ従姉さんも、そこまでは聞かされていなかったらしく、俺の話しにさっきまで子供みたいにかわいい表情で聞いていたのに、急に一人の研究家のような顔立ちに変わった。
おぞましい数の魔物と呼ばれる「それ」らは、意思が感じられない視線をこちらに向けてきた。見た目からは、全く凶悪性を感じないが、やつらから放つ殺気はこいつらが常識の範囲内の生き物でないこと再確認するには充分だった。
時間は十時を過ぎようとしていた。いつの間にか周りには、明かりが灯っている民家は一軒も見当たらなかった。田舎町とはいえ、まだ正午にもなっていないのに、完全に消灯してしまうのはどう考えても不自然だった。まるで、自分が見知らぬ空間へ迷い込んだような感覚だ。
静寂している周りとは裏腹に、俺と対峙している怪物達との間には、一触即発の「魔力」が渦巻いていた。
しかし、もっと驚くことにその魔物の群れに果敢にも飛び込んでいく影があった。
俺と同じ年齢とおぼしき少女が鋭い口調で俺に向かって叫ぶ。
「何ぼさっとしていますのライヤさん!」
その後に、先ほどと比べやややわらかな口調の銀髪の少女も叫んだ。
「あるじ、早く!」
二つの影、いや二人の少女は俺に声を掛けてきて、俺も戦うよう促した。
「戦うっていったって、いったいどうすれば…」
俺は、状況が飲み込めず狼狽していた。そんな俺に励を飛ばすように銀髪の少女が再び叫んだ。
「あるじ!そのアクセサリーを握って強く念じればいい!」
「これを…?」
俺は、慌ただしく今日身につけたばかりのネックレスに付いている純白のブローチを握りしめた。そして、言われるがまま彼女達の言うとおりに念じたが…
ブローチの中に紫に輝く宝石が力強く光りだし、ふと、頭に知らないはずの言葉が自然と浮かんできた。
「古の聖獣よ、我に従い力を与えよ。雷鳴を轟かす稲妻の聖獣!」
時は遡り
「ふぅ、やっと着いたか。十年ぶりか、懐かしいなぁ。」
そう呟きながら、懐かしい香りがする駅の改札口を通った。
俺は、芯央ライヤ。どこにでもいるごく普通の十六歳の高校一年生だ。
昔、この神楽町で生まれ育ったが、考古学者兼遺跡発掘屋を営んでいる両親の仕事の都合で、俺が六歳の時、ここを離れ都会の方に引っ越した。
しかし、突然親父が調査している海外の中東付近にある遺跡から、今までの常識を覆すような大発見をしたらしく、長期間海外に赴かなければいけなくなったということで、一人となった俺を夏休みの間だけ故郷であるこの神楽町に帰したというわけだ。
さっきも言ったけど、俺にとっては十年ぶりの里帰りとなるわけだ。
「おかしいな。もう来ているはずなのに…」
俺が、辺りをキョロキョロ見渡していると…
「おーいライヤ。ここよ。」
軽自動車の運転席のドアの前に立ったまま、俺を呼びながら手を振っている二十歳前後くらいの女性がいた。均一がとれたスタイルが、彼女を魅力的な大人の女性であることを思わせていた。それでいて、顔立ちは年の割にはまだ童顔っぽく、俺を見つけて嬉しそうに笑う顔はどこか少女のようなあどけない印象を与えていた。一つに纏めた栗色の髪からは、今にも女の人らしい甘い香りが漂ってきそうだった。
俺は、その女性がすぐに誰だか分かった。
「リナ従姉さん。久しぶり。」
俺は久しぶりの再開を交えた挨拶をかわしながら、早歩きで彼女の車に向かった。
「久しぶりね。しばらく見ないうちに、随分男らしくなったんじゃないかしら?」
彼女も久しぶりの再開に、更に子供っぽい笑顔を見せてくれた。
紹介が遅れたが、この人は七五三掛リナ。俺の遠縁の親戚に当たり、俺にとっては小さい頃よく面倒をみてくれた姉のような存在だ。大学生であるが、今は夏休み期間中であるので、今日俺が都会から神楽町に帰ると親父から聞いたので、この駅前まで迎えに来てもらったのだ。
「ここで立ち話もなんだから、とりあえず車に乗りなよ。買い物もしなきゃならないことだし。」
リナ従姉さんは、自分の車に乗れと言うように少し切れ目のある瞳をウインクしながら合図した。そして合図された通りに俺が車に乗ると、車のエンジンを掛け、ゆっくりと駅を後にした。
駅を出発してしばらくの間、リナ従姉さんと他愛もない会話をした。都会の学校はどんな感じなのか、両親の遺跡発掘でどれほどの発見をしたのかなど。
「さすが、考古学会からでも一目置かれているだけあるね、君の両親は。今までの業績もさることながら、今回の大発見。」
両親が発掘している遺跡の大発見の件は、親父から既にリナ従姉さんの耳には届いてはいたが、改めてその話を聞くと、まるで始めて美味しいものを口にした子供のような好奇心剥き出しの顔をまんべんなく俺に向けた。
確かに歴史の研究家にとって、大発見は注目を浴びることになり、時として名誉を手に入れられるほどでもあるようだ。だから今回の件も考古学会からは、正に歓喜の声が湧き上がるものだったらしい。
しかし、俺もこの件を聞かされてはいるが、実は俺も両親も素直に喜べなかった。というのも、その発見にはいささか疑問もあったからだ。
「でも、中東付近にある遺跡で特に有名なものは、シリアのパルミラ、ヨルダンのペトラ、イランのペルセポリスで、この三つは中東三大遺跡と言って通称3Pと言われているんだ。そして…」
「おお、さすが両親が発掘屋だけあって君もその血筋を引いているね。」
これから重要なことを言おうと思ったのに、俺の話を途中で邪魔するようにリナ従姉さんが、感心した声で言った。
「人の話は最後まで聞いてくれないか?」
俺は、溜め息をつくように呟いた。
「ハッハッハッ。そんな落ち込むなって。で、その3Pがどうしたの?」
俺の悪態を気にしない、というより、まるっきり無視しているかように、俺に話の続きを促した。その、彼女らしいあけすけさは、逆にこっちが感心してしまう。
「自分で話を切っといてよく言うよ。」
再び且つさっきよりも呆れ気味に深い溜息を吐いたが、これ以上ツッコむと話がますます脱線していまうのでツッコむのはよそう。俺は、中東の遺跡についての話に戻した。
「中東の遺跡は、さっき話した3Pはもちろん、ほとんどが砂漠地帯に建設されているんだ。そんな広い荒野に、何十本も林立している石柱や宮殿跡が散在しているけど、そのどれもが石造りで出来ている。」
リナ従姉さんは、俺の説明に今度は割り込むことなく、「なるほど」と頷きながら昔話を聞く子供みたいに聞いてくれている。
「だけど、今回両親が発掘した遺跡には、祭壇らしき所に水晶が発見されたんだ。俺も写真だけで実物を見てないから、詳しくは分からないけど、その水晶宝石のようにキラキラ輝いてて、大きさも人間大くらいあるらしいんだ。中東の遺跡にだぞ。信じられるか?」
さすがにリナ従姉さんも、そこまでは聞かされていなかったらしく、俺の話しにさっきまで子供みたいにかわいい表情で聞いていたのに、急に一人の研究家のような顔立ちに変わった。
作品名:四神五獣伝一話 1/2 作家名:トシベー