ラベンダーの夏
三週目、僕は女の子に聞いてみた。
「どうして、こんなにラベンダーのポプリばかり買っていかれるんですか」
女の子は、少し驚いたように、回していた指を止めた。
「ええっと……、ラベンダーティーを入れるんです。美味しいんですよ。それに……」
「……それに?」
「ラベンダーティーは、染めるのにも良いんです。いろいろなモノを、染めることができるんです。それで、私は全身を染めているんです、ラベンダーで」
「……全身を?」
「ええ。ラベンダーで体を染めると、すごく飛べるようになるんです。とても、良いんですよ」
「そう……なんですか」
「はい」
女の子は、また照れたように微笑んで、店を出て行ってしまった。後には、疑問ばかり抱え込んだ僕だけが、残された。
その翌週、女の子はラベンダーのポプリを抱えて、にっこり笑って言った。
「いつも、有難う御座いました。今日で私、この町ともお別れです」
「そうですか。夏休みも、もうすぐ終わりですものね……」
女の子は少しきょとんとして、その大きな目で僕を見上げた。
深い、紫色――ラベンダー色の、大きな目。
「それで、お願いがあるんです」
「なんですか?」
女の子は、少し緊張するように、また落ち着きなく指を回し始めた。
「私、来年もここに来たいんですけど……、あの」
「はい?」
「ラベンダーを、……この店の前に、ラベンダーを……飾ってくれませんか?」
「店の前に? 良いですけど……」
僕が肯くと、女の子はほっとしたように指を止め、微笑んだ。
「きっと、来年もきますね」
「どうぞご来店ください。待ってますよ」
女の子は嬉しそうに、店を出て行った。そして、次の週からはもう、彼女の姿を見ることはなかった。