戯曲 フォビア
第三幕
(娼館裏の人気のない路地に立つ二人の男)
オーギュスト
(金貨の入った袋を出す)これを。
サーケイド
貴様からこのような物を受け取るいわれは無い。
オーギュスト
いや、受け取ってくれねば困る。
サーケイド
……。
オーギュスト
さぁ(サーケイドに袋を押しつける)
サーケイド
いらぬ(踵を返し歩き出す)
オーギュスト
(その後ろ姿に投げかけるように)君は彼女の弟だろう!
サーケイド
!(立ち止まり、振り返る)
オーギュスト
私は伯爵だぞ? この辺りの事ならば、どんな事でも耳に入るのだ。
(サーケイドに近づき金貨の入った袋を見せ)ご苦労だったね。
サーケイド
いらぬ!
オーギュスト
……君は彼女を解放したのだ。胸を張って良い。
サーケイド
人間が人間を解放する事など出来るものか。
人間が人間に胸を張って良いなどという評価を下せるものか。
お前は驕っている。驕っているぞ伯爵!
オーギュスト
そうだ、私は驕っている。驕っているからこそ言おうじゃないか!
君には金が必要だ。さあ、取っておくのだ。(再び金貨の袋を押しつける)
サーケイド
貴様だけは決して……決して許さないぞ、伯爵!
オーギュスト
同じ気持ちだよ、サーケイド。
私もお前を許す気など無い。だが、それとこれとは話が別だ。
今からお前はどうするのだ? あの男から逃れる術は金以外あるまい。
サーケイド
(恨めしそうにオーギュストを睨みつける)……黙れ。
オーギュスト
彼女を解放した君が、今度は縛られる事になったのだ。……憐れだな。
(サーケイド、オーギュストと距離を取り身を屈めながら笑いだす)