南の島の星降りて
夏の空
それから、夏樹は荷物を抱えて、自分の家に帰っていった。大場が起きだしたのはそれから10分も経たない時間だった。
「夏樹は帰っちゃったの?」
さびしそうだった。
「ちょっと前にね。大場によろしくって」
「そっかー。残念だなー。俺も帰ろうかなー」
冷蔵庫から勝手に出してきた麦茶を飲みながら聞いてきた。
「酔っ払ってない?大丈夫?泊まってもいいけど・・」
「いや、もうさめてる感じだから。平気だな」
酒は強かったから、平気かなーって思ったけど、事故られたらいやだしなーって考えた。
「聞いていい?変なこと?」
カーテンを開けながら外を大場は見ていた。
「おまえ、なんで彼女すきなんだ。直美ちゃんのこと・・」
ちょっと、答えるのはイヤだった。そんな事を人に話すことは今までなかったし、話すようなことではないと思っていた。たぶん話してもうまく伝わらないとも思った。
「どうよ。なんなんだよ」
ちょっと答えなかったので大場は声を大きくして聞いてきた。
「わかりづらくてもいいなら・・話しすけど」
「うん」
大場は、本当に聞きたそうだったらしく顔をこっちに向けてきた。
「高校の同級生なのは知ってるよね。初めて見たときビックリするほど好きだった。自分でビックリした。でも、話もしなかったなー。別に付き合わなくていいって思ってた。
怖かったのかなー。でもずーっと好きだったな。俺ってバレー部だったって大場で知ってたっけ。2年生の夏休みにさ、体育館で練習してたのよ。体育館って結構暑くてさ、でっかい扉がるんだけど、そこは開いてるのよ。その扉の中にグラウンドに向かってる扉があるんだけどさ、そこに気づいたらいきなり、直美が立ってた。こっちを見て練習みてた。それがさ、すごく感動的に綺麗だった。あんなの見たことなかった。あの時、いい女に惚れてるなーって思ったんだ。それが彼女を好きな理由だな。わかりづらいだろ・・。たぶんな、いつかきっと何かあってあいつと別れることとかあるかもしれないけど、あの時のあの直美はずっと俺の中で生き続けるんだなーって思うよ」
静かに大場は聞いていた。
「そうかー。俺ってずっと夏樹のこと好きでもいいのかなぁ」
「それはお前が決めればいいことよ」
二人でしばらく黙っていた。
大場が窓を開けて、「こっち南?」って聞いたので「そうだな」って答えた。
「星見えないなー。俺の星は綺麗で遠いなー。でも、しばらく俺、夏樹のこと好きでいくわ・・。夏樹は俺にとって南の星よ」
暑いのに俺たち二人は窓を開け、男二人で南の空を見ていた。
いい奴と友達だと思っていた。
大場は俺をどう思っているんだろうって思った。
俺には南の星は、見えなかったけど、きっと大場の瞳には綺麗に大きく輝いてる星が見えてるんだろうなーってしみじみ思えた。
あの時、直美を見た俺のように。
南の島の星は大場のところに間違いなく輝きをふりそそいでいる様だった。
赤いハイビスカスの香りを添えて。
***南の島の星降りて稲村ガ崎に光り輝く夏の空***
「南の島の星降りて」完
読んでいただきありがとうございました。お名前をお借りしたかたがた、ありがとうございました