南の島の星降りて
夏樹と二人
しばらくして、静かにしてるのも飽きたので、全然やってなかったレポートを隣の部屋で書くことにした。芸術学部の文芸学科なんてヘントコなところに通っていたから、短い小説を適当に書けばよかったんだけど全然進んでいなかった。題名も決まっていなかった。
少し文章を進めては、「つまんねー」とか独り言の連続だった。10分もしない間に部屋のドアを開ける音と一緒に夏樹が静かにそばに立っていた。
「起きちゃった。邪魔してもいい?」
小さな声の眠そうな夏樹だった。
「あ、大場は?」
「まだ、寝てる。起きそうもないよ。大場」
すぐ横で、不思議そうに原稿用紙を眺めていた。
「宿題ね。短編ひとつ書かないといけないんだよ。題材も決まってないんだけどね」
「出来たら読ませてね」
「いや、無理。はずかしいじゃん」
笑ってごまかした。
「私、帰ろうかなーって思うんだけど、聞きたいことあるんだけど、いい?」
ここは机もおいてあるけど、ベッドも横に置いてあった。夏樹はそこに座ったかと思うと上向きに横になっていた。
「なに」
「あのさ、また遊びにきてもいい?劉とこ?」
「いいけど・・」
夏樹はずっとなにもない天井を眺めて話していた。
「でもさ、彼女帰ってくるでしょ。もうすぐ。あんまり知らないんだよね劉の彼女。少ししか話したことないからさ・・」
「俺も、夏樹とよく話すようになったのって夏休みになってからだからね。
でも、直美、夏樹のこと知ってると思うけど」
ちゃんと 話したことはあるのかなーとは思っていた。
「ねぇ、こっち来て、キスしたら劉のこと許すからキスして」
しばらく俺も夏樹も黙っていた。
近づいて立ち上がってベッドの上の夏樹を見ると、目があった。
すこし口元を緩めてから、静かにゆっくり夏樹の瞳が閉じた。
手をベッドにつけて立ったまま夏樹の顔に近づき、そーっとほのかにキスをした。
夏樹の手は俺の肩を下から抱きしめた。
ほんの短い時間だった。
「許してあげるね。好きだったんだけど」
体をベッドから起こしながら夏樹がしっかりした声で言ってきた。
「これで、麗華さんと一緒ね。よかった。ちょっと悔しかったんだよね。劉さ、麗華さんとはキスして私とはキスしないんだもん」
ごまかしている夏樹はほんとうにかわいかった。