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透明人間

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どうしても何があったのか知りたかったので俺はしつこく彼女を追いかけ、やっと追いついたのが彼女も住処として使っていた「廃墟」だ。
捕まえてからものすごい勢いで怒られてしまったが、最後には事情を説明してくれた。
古代の「透明人間感染症」という病に関しての書物を見つけて、現代にはまったくもってない不思議な症例の病気だったので試しに実験室でそれを模したウィルスを作ってみたところ自分が感染。非常に変異した状態のウィルスに感染してしまったらしく、古代の書物に書かれているものとはまったく違うものになってしまい、対処方が待ったく分からないという状態らしい。
そして、感染症としての猛威を振るうことがなかったが古代の書物を読む限り、感染者の存在を認知できる人間は危険であるという記述を読んだので、彼女を認知できた自分を避けたということだった。
しかし、ときすでに遅し。俺も感染者になってしまっていた。
そこからは存在を認知されない二人の共同生活が始まった。
元々、将来を誓い合った仲だったので廃墟での生活とはいえ順調に生活は回っていった。
困難があっても二人で立ち向かった。喜びも悲しみも二人で分かち合った。
しかし、そんな時間にも終わりがやってきた。
ある日、彼女がこんなことを言い出した。
「最近、私の『存在』が消え始めてる……。」
最初は何を言っているのか分からなかったが、だんだんとそれを理解していった。
日にちがたつ程、彼女と一緒にいると感じられる時間が短くなっていっていたのだ!
彼女は「透明人間感染症」に関しての書物から病気の症状が4年で回復するという事実を見つけたが、今自分たちの感染しているのは変異型のウィルス。何が変わっているのか分からなかった。
彼女は「消失」の間際まで手記の中にこの感染症の症例をまとめ、そしてその「存在」は消えた。
「存在」が完全な「消失」をすると、透明人間感染症患者からもその人の存在を認識することができない。そしてそれが来るのが感染者が新たな因子を持つ者と接触し感染者が増えた時から4年後らしい。

俺は手記を全部読み終わって、泣いた。恋人の存在が消えたとはいえ、その「死」に値するようなことにどうして気づかなかったのかと。そして彼女のことを忘れてしまった自分に怒った。
そして俺は思った。自分も彼女と同様に次の世代にいろいろと伝えるべきことがあるではないのかと……。








おじさんの手記をパタンと閉じ、一息つく。
いろいろ頭の中で整理をしていると扉からノックの音が聞こえた。
「おじさん、僕今日はもう寝るね」
タクが寝る前の挨拶に来たようだ。まだタクにはいろいろと話していなくて、ちょうどいいと思いタクに寝る前にいろいろ話をしてあげた。おじさんの話、透明人間症候群の話、今後自分がどうなってしまうのか……。
そして一番最後にこんな話をしてあげた。
「俺は思うんだ。最後には絶対にこのウィルスの正体を突き止めれるってね。だから最後まで諦めちゃいけない。……例え世間から『存在』が消えていても、後数年で『消失』するとしても、俺らはその『存在』と『消失』の間にいる人間なんだからそこでしかできないことがあるはずだし、そこで足掻かなければ俺たちは何のためにここにいるのかわからなくなる。それこそが恐れるべき『消失』だと思うんだ。……って寝ちゃったか」
俺の話を聞いてるうちに寝てしまったタクをベッドに寝かしつけてから、自分の日記帳を開いて頭の中で整理して出てきたこんな言葉を書いてみた。








「存在」があって「消失」は初めて定義することができる。それは消失する前には必ず存在が必要だからだ。しかし存在をするために消失が必要なわけではないので、「消失」から「存在」を定義することはできない。しかし、「存在」も「消失」もしてない自分ならこれを定義することができるのではないだろうかと思う。そしてそれこそがこの感染症の鍵ではないだろうか……。
作品名:透明人間 作家名:黒井 心