陰陽戦記TAKERU 前編
第四話 鬼と少女
それから数日後、
もうすぐ六月になろうとしているある日の事だった。
突然美和さんが言いだした。
「武様、私…… 働こうと思います」
「えっ?」
朝食の時に飯を頬張っていた俺と加奈葉は箸が止まった。
「どうしたの美和さん、そんなに改まって……」
加奈葉が訪ねると美和さんは深呼吸して間を置く、
「私、ずっと考えていました。武様は鬼退治や聖獣達探しを手伝ってもらっています、加奈葉様だってお着物やお食事の用意をしてもらっています、それなのに私だけが何も出来なくて……」
美和さんは今にも泣きそうになった。
そこまで考えていたなんてなぁ……
「私はこれでも文字の読み書きは出来ますし、それに星を見たり暦を作成したり時刻の測定も出来ます」
美和さんの能力は現代では何の役にも立たなかった。
俺はそんな事を考えながら登校、授業中でも俺は少ない脳細胞をフル回転させて美和さんでも出来る仕事を考えていた。
俺と同じくコンビニの店員、ファーストフード店、ピザの宅配、って免許が無いか…… となるとやっぱりモデルか何かか? でもこの時期を考えるともうすぐ暑くなる、となるとどんどん露出の高い服を着る事になるはず、そして夏になる頃には水着も……
「いやいやいや……」
俺は首を振って平常心を取り戻す、
美和さんのファッションショーの会場は俺ん家でやるのであり他人には見せる気にはなれん、と言うより暗黒天帝がどこにいるのか分からない以上はあまり目立った仕事は良くないだろう、
となると俺がバイトを増やすしかないか、放課後は無理だから朝新聞配達か牛乳配達を……
「う〜〜〜ん〜〜〜」
朝からずっとこんな感じで悩んでいた。
おかげで最初から耳に入らなかった授業が余計耳に入らなかったぜ、ノートをとるのも忘れたから後で加奈葉に借りなきゃな、怒られるけど……
同じく学校が終わったのだろう、ランドセルを背負った小学生達が後ろから楽しそうに俺を追い抜いた。
そう言えば俺もこのくらいの頃は学校が終わると加奈葉や学とどんな事をして遊ぼうか、そんな事ばっか考えてたな……
今じゃバイトにゲームに勉強(たいしてしてない)が急がしくてその暇もねぇしな、
「あ、しまった。美和さんのジュースを忘れた!」
俺は美和さんのオレンジジュースを買うのを忘れてしまい慌ててUターンした、家の近くの自販機でも売ってない事は無いがどっちかと言えばコンビニで買った方が安い、どうせならバイト先で買った方が売上にも協力できるしな。
「おっと」
運が悪い事に交差点の横断歩道が赤となり、俺は青になるのを待った。
自動車も無いし、いっその事赤のまま渡っちまおうかと思ったがその時だった。
突然目の前から1人の小学生の女の子が赤信号なのに関わらず歩道に飛び出してきた、しかし様子が変だった。
考え事をしているのか俯いたまま周りが見えていないようだった。
すると案の定と言うかお約束と言うか乗用者が走ってきた。
しかも運転手は携帯で話でもしてるのか女の子に全く気付いていない、
「危ない!」
俺は思わず叫んだ。
すると女の子も声に驚いて車の方を振り返る、
「……あ!」
悲鳴を上げようと思ったのだろうが車の方が早かった。
俺も走っていたが駄目だった。この時麒麟の宝玉を使ってれば何とかなっただろう、俺はその事を忘れていた。
「なっ?」
次の瞬間、俺にも何が起こったのか分からなかったが見る影もなく潰れたのは車の方だった。
女の子はその場に尻餅をついていたが傷は無かった。
「大丈夫か?」
俺は女の子に訪ねるが女の子は怯えていた、まぁ無理は無いだろう、次に運転手の方だった。
粉々になったフロントガラスの中を覗くと運転手は俺より少し年上の若い男だった。男には意識は無く頭から血を流していたから病院に連絡しなければならないだろう、
携帯電話を手に取ろうとしたがその時、突然背筋に異様な気配を感じた。
しかし振り向くが何もいず気配も消えていた。
「今のは……」
俺は息を飲んだ。
その気配とは鬼の気配だった。
俺は警察からの事情聴取も終えて家に来た時はもはや日が暮れていた。
加奈葉の夕食も用意されていて2人はすでに食事にしていた。
「……ってな事があったんだよ」
俺は夕方起った事を話した。
そして俺が感じた気配の事を……
「それは鬼の気配ですね」
やっぱりな……
「でも鬼が出るのは夜じゃない? この前と言い随分時間がずれてない?」
「陽の気が弱ってきたのでしょう…… それより問題は鬼が誰かの中に戻った事です」
そう言えば鬼は人や物に憑依できるんだよな…… となると誰かに憑依した事になる、すると俺はあの女の子の顔が浮かんだ。
「何考えてんだ俺は……」
しかし否定できないのも確かだったな、
作品名:陰陽戦記TAKERU 前編 作家名:kazuyuki